トイレから出て、騒がしい廊下を歩く。


いけない、いけない。気を引き締めなきゃ。

この学校に来たのも来れたのも、全部理由は豊……

男子生徒は豊と同じ格好で、

ここは豊が二年間通った場所。




なのに豊は居ない。



それを思い知って、辛くて、油断したら涙腺を緩んでしまいそうだ。






「音和…」



教室の横に設置された階段から私を呼んだのは、
無気力な山岸 優也(やまぎし ゆうや)君だった。



山岸君は、入学の日に私の名前を一発で当てた人。

彼は、女子から人気だ。容姿は解るが、無表情で無気力…何に対しても自分のペース。
同じ中学出身の男子と仲が良いみたいだが、馬鹿騒ぎをしたり、喜怒哀楽を表したりというのは無い。


明日香に言えば「そんな神秘的なところも人気らしいよ」と言っていた。