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見た目は怪しくない男

が、発言は怪しい男

鈴子はこれ以上のやり取りを望んではいなかった。


「分かりました…えーと、親に聞いときますので…」


可能な限りの笑顔を浮かべると戸を閉めた。

ふぅ…と、一息

なんだったんだろうと首を傾げながら自室へと引き返す。


「伊藤鈴子さん。資料によると随分と刺激のない生活を送ってますね」

「!?」


背後で男の声がした。

驚きに肩を揺らしながら振り返る。

締め出したはずの男が平然とそこに立っていたのだ。

透明なファイルに目を落としている。


「魂の契約さえすれば、貴方は平凡ならぬ素晴らしい人生を送る事が出来ますよ」


ただ驚くばかりの鈴子

音もなく侵入したにも関わらず涼しい顔をされれば、

怖いどころの騒ぎでわない。


「やっ…な、何で…」

「悪魔ですから」

「………」

「常人には不可能な事が出来て当たり前と言うことですよ」


今の鈴子にはまだ彼が悪魔などとは理解出来ない。

よくて敏腕の泥棒だ。

鍵開けのテクニックが優れてるぐらいにしか思えない。


「では、契約のご説明に戻っても宜しいですか?」

「ちょっと待って下さい!…わけが判りませんから!!」


鈴子の拒否っぷりに悪魔だと名乗る水野は黙った。

いつまでたっても平行線だと別の切り口を模索する。

彼は見た目通り常識を持った賢い男なのだ。


「まず私を悪魔だと信じさせねばならないようですね」


その通り。

だが、そんな事が可能なのかと見守る鈴子。

水野はまず自分の姿をしげしげと眺めた。

ふむ、と頷く


「最近これが仕事着だったのですが…確かにこれでは悪魔には見えませんね」


パチン

指を鳴らす。

瞬間、彼の姿は一変した。



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