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立ちはだかる壁は高いのか、

悪魔は注意深く観察した。


「人生を変えたいとは思わないのですか?」

「思わないというか…」

「変えられる人生を変えないのは誤ってます。それとも臆病風が吹きましたか!?」

「うーん…」


鈴子は腕組みをして唸った。

ふぅ、と溜め息を一つ。


「魅力的なお誘いですけど。むしろつまんないといいますか」

「はい?」

「契約に縛られた人生はつまんないですよね。多分」

「………」


つまらない…

今まで十分つまらない生活をしているのにこれ以上何があると?

そんな風に言い返されたのは初めてだった。

とても理解出来そうにない。


「因みに、契約すると魂ってどうなるんですか?」

「…あ、はい。天国へも地獄へも行けず、輪廻からも外れ私の手に魂が渡ります」

「へぇ。想像つきませんけど…やっぱりつまんないかな」


悪魔はポカンと鈴子を見ていた。

今、生きて人生が終わるまでは何不自由なく暮らせる。

その後の事までは気にかけて契約する人間はいない。

それは目先の欲に負けるから…

だが、つまらそうだと断る鈴子。

欲も野心も引き出せない人間がいるのかと信じられない気持ちだった。


「望みはない、と…?」

「差し当たってないですね。このままでいいです」

「そんな…」

「確かに平均より出来ないかもしれないけど、たまに嬉しい事や楽しい事もあるし」


眩しくて見ていられなかった…



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