奈那子さんは俺のことを和くんと呼んだ。

 でも奈那子さんは死んでしまった。

 だから俺をそういうのはもうあの子しかいない。


 「弥英ちゃん…」


 桐島弥英、奈那子さんの一人娘。

 確か今年で17歳だっただろうか。


 「和くん、久しぶりだね。私のこと覚えててくれたんだね」


 そうやって笑う顔はいつもより元気がない。

 当たり前か、なんて思う。母親が死んだのだから。

 弥英ちゃんにとっては唯一の家族の死でもあるのだから。


 「当たり前だろ、従妹なんだから」

 「はは、そうだね…」


 弥英ちゃんの悲しみに比べたら俺の悲しみなんてちっぽけなものなんだろう。

 これからどうするんだろう。

 やっぱり親父が引き取るのかな、なんて思う。

 そしたら俺と弥英ちゃんは兄妹になるのかな。


 「和臣、弥英ちゃんと一緒に何か飲み物でも買ってきなさい」


 そういって母さんはぐいぐいと俺の背中を押した。

 だから仕方なく俺も弥英ちゃんを誘い葬儀場内にある自販機へと向かった。