「はじめまして。山岸 千夏(やまぎし ちなつ)です」
 千夏はもじもじとした様子でチョコンと頭を下げた。どうやら相当な恥ずかしいがり屋のようだ。色白な肌が真っ赤に染まっている。
「渚です。これからよろしくね。千夏ちゃん」
 渚はニコッと微笑むと千夏に手を差し延べた。しかし千夏はさらに顔を赤くさせるだけで自分の席に戻ってしまったのである。
(う〜ん。なんか私恐がらせるようなことしたかなぁ?)
 渚は顔をしかめながらも席に着くのだった。人間嫌いな渚だが何故か千夏に対しては少しも嫌気が刺さなかったのである。
「今日はカレーだよ。私が作ったんだから文句言わずに食べな」
 鈴は二人にそう釘を刺すと目の前の皿にがっついている。女性とは思えないような食いっぷりである。
 鈴の凄まじい食欲にそそられたのか渚もカレーを一口食べてみた。まずくもないがおいしくもない。ただのカレーの味だった。
 渚はおかわりをすることもなく普通に夕飯を終えたのだった。


―☆―☆―☆―☆―☆―


 夕飯を終えた三人は特だんなにもすることがないため各々好きなことをやっている。
 千夏はテーブルに座って勉強をしている。今学校は春休み中らしいので恐らく春休みの宿題をしているようだ。一方ソファーの上で横になっている鈴は、タバコをふかしながらファッション誌を眺めている。何故かこの時間帯までつなぎを着ている彼女にファッションなど気にする必要があるのだろうか。
 そんな二人を横目に渚はカウンターの隅に飾られている絵を眺めていた。普段絵などに興味を持たない渚だが、どうやらこの絵は例外らしい。
「やっぱりこの魔女シラセ様だ」
 絵に描かれているこの魔女は大昔、人間によって虐げられてきた沢山の同胞達をまとめあげ人間達と戦った魔女なのである。それゆえ魔女なら彼女を知らない者はいないのである。
「聖魔女シラセ、大昔人間達に戦いを挑んだ英雄」
「キャッ!」
 渚は悲鳴を上げ飛び上がった。
「何驚いているのさ?」
 渚の背後には煙を口から撒き散らす鈴が仁王立ちしていたのだ。
「も〜!気配もなしに人の後に立たないで下さいよ」
 わめき立てる渚だったがそんな虚しい抵抗も軽々と鈴にスルーされてしまう。
「お前が絵に見とれているからだ。だいたい私は何度もお前を呼んだんだがな」