渚は可愛らしく首を傾げた。もし彼女が仮に人間たったら、今の仕草を見た人間の男達は渚に群がるだろう。それほど渚の容姿には異性を引き付ける魅力がある。
 しかし、それは仮に渚が人間だったらの話ではあるが。
 そもそも魔女と人間が初めて接触したのは、およそ八百年も前のことだと言われている。しかも、魔女発端の地は紛れも無くこの日本なのだ。そのため日本は魔女の聖地として各国に称されている。
 日本は聖地と呼ばれているだけあって、世界で初めての魔女に対する法律を立案したのだ。法律と言われれば聞こえるが、彼女達からしてはただの人種差別としてしか見られなかったのだ。
 だから魔女達は人間を恨んだ、彼女達一族は人間に仕返しするためあらゆる手を使った。毒薬を作ったり呪いを人間達にかけたりした。それに怒りを覚えた人間達は魔女狩りを決行したのである。
 以上が人間と魔女の歴史である。
「まったく、こうして考えるとほんと人間って最悪。なんで私よりによって宅配便なんてなっちゃったのよ」
 渚はぶつぶつと愚痴りながら腕時計を見た。時刻は既に4時を回っている。
「やばっ!もうこんな時間。早く宿屋に行かなくっちゃ」
 渚は慌てた様子でほうきを握ると、宿屋に向けてほうきを走らせた。
 太陽は空の重さに耐え切れなくなったのか、地平線に沈んでしまいそうだった。


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 ここは町の中心部から少し離れた町。高峰町だ。周りには先程見た数えきれないほどの高層ビルや、巨大な魔法陣、もとい横断歩道の姿もない。あるのは整備されていない道路や所々にぽつんと建てられている民家だけである。
「ちょっと何ここ。マックはおろかコンビニすら見当たらないんだけど」
 渚は辺りを見渡すとすぐにため息をついた。目立つものといえば町の隅に建っている灯台くらいだ。
 町の上空をふわふわと飛んでいる渚は地図で確認した場所。今日からお世話になる宿屋に向かった。
 地図を片手に渚はどんどん町の奥に進んでいく。すると、どうやら宿屋であろう看板を立てている建物が見えてきたのだ。
 渚はよろよろと危なげない様子で宿屋の前に着地した。荷物を地面に下ろした渚は看板に書かれている妙な宿屋の名前に目を擦っている。
「魔女の宿屋………これが名前?こんなんで客が入ってくるの?」