渚はそう自分に言い聞かせると、棒………いや、魔女の相棒とも言えるほうきを自分の足の間に挟んだ。
「こんな沢山の荷物。大丈夫かなぁ?でもこうしないと時間に間に合わないし」
 意を決したのか、渚は両手で力強くほうきを握り締めると、思いっ切り地面を両足で蹴った。渚の体はまるで月にいるかのように跳ねると、見る見るうちに空へと飛び上がったのだ。
「よかったぁ。なんとか間に合いそうね」
 渚はホッと胸を撫で下ろした。顔を上げると目の前にはビルの窓からこちらを指差している人間の姿が見える。この世界に魔女がいることはなんら不思議なことじゃない。もちろんこの町にも渚以外に沢山の魔女が住んでいるのだ。ただ、空中に人が浮いていたら人間が注目するのは当たり前だ。
「何よ、人間なんて自力じゃ空を飛べないから私達に嫉妬してるだけじゃない」
 渚は鋭い目つきで窓ごしにこちらを指差している人間を睨みつけると、そのままビルよりも高く飛び去ってしまった。


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 人間は嫌いな渚だが、人間が作りだしたこの町並みの風景は好きだった。空から見渡せる町の全体に渚は猛烈な感銘を受けている。
「さっすがは人間様々ね。こんなすごい物を造る技術だけは尊敬にあたい〜」
 ゆったりと空中遊泳している渚は、ほうきに横乗りすると持参してきた自家製のパンを食べ始めた。
「うん。やっぱり私が作ったパンは最高だわ」
 渚は満足げに頷くと残りのパンも平らげてしまった。
 のどかな時間がゆったりと渚の体を包んでいる。時刻はまだ2時30分。時間的にはまだ余裕がある渚は、もう少しこの景色を眺めることにしたのだった。
「ハァー。こんな人間嫌いの私でもいつかは人間と結婚しなくちゃいけないんだよね〜」
 渚は苦々しい顔でぼやいている。嫌だというよりはむしろ仕方ないという感情が渚の言葉に込められている。
 渚の言う通り、魔女はいつかは人間と結婚しなければならない。それは自分の後継ぎを産むためだ。そのため魔女は一生かけて自分と運命を共にしてくれる人間を探さなくてはならない。実際渚はまだ17歳だが、既に婚活してもなんら不思議なことじゃない。
 魔女にとって結婚とはそういうことなのである。
「うーん。お母さんはどうやって相手(お父さん)を探したんだろう?」