「やっと着いたー!!」
 沢山の荷物を背負った渚は、電車から降りると周りが自分に注目しているのにも構わず叫んだ。周りの人達は荷物を抱えた綺麗な黒髪美人の少女に目を見張ったが、渚の瞳の色を見て興が尽きたのか、駅の出口へと去ってしまった。
「何よあいつら。人の顔を見る度にあんな態度とって」
 渚はフンッと鼻を鳴らすと、大量の荷物を背負い直し駅のホームを出て行った。
「…………なんだよ。結構かわいいと思ったら魔女なんてよ」
「…………魔女はソッコー死ぬべきっしょ」
「…………てか、あいつ宅配便だろ?見るからに落ちこぼれじゃん」
 渚が駅を去った後、駅では渚に対するブーイングのようなものが人々の間に流れていた。


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 立ち並ぶ高層ビル。行き来する大勢の人。特に目の前のスクランブル交差点に、渚は目を輝かせていた。
「スッゴイ!!何!?あの形。まるで何かの魔法陣みたい」
 何かの魔法陣とは恐らく横断歩道のことだろう。初めて都会に来た渚は、やはり当たり構わず様々なリアクションを見せているのだ。
 もちろん先程と同じく周りの人々は騒いでいる渚に注目するのだが、渚の顔を見るとそそくさと歩き去ってしまう。
 そんな人間達に再び不機嫌になった渚は、はしゃぐのをやめ近くのベンチに腰を下ろした。
 渚はポーチから大きな地図を取り出すと、目の前に広げた。
「えーと………現在地がここだから、私が泊まる宿屋は…………ここか」
 渚は赤ペンを取り出すと目的地を二重丸で囲んだ。
「っても遠いな〜。歩い行ったら絶対夜になっちゃうよ」
 今の時刻は調度2時ぐらいだ。春の日差しが暖かく渚を照らしている。だが、そんなゆったりとした時間は渚にはない。まず宿に着いたら魔女専用郵便局。いわゆる魔局に行かなくてはならない。魔局は午後5時にはしまってしまうため、歩いていてはまず間に合わない。
「どうしよう。これなら朝寝坊するんじゃなかった」
 渚はその場にガックリとうなだれた。無論誰かに相談するわけにもいかない。そのうえ大の人間嫌いの渚が周りの人達に助けを求めるはずがない。
 渚はうなだれた様子で沢山の荷物の中から、一つだけ外に飛び出している一本の棒を抜き出した。
「仕方ない。ほんとはいけないんだけどばれなきゃ大丈夫よね」