「あ!君はさっきの………」
 話しかけようとする裕也だったが、渚はそんな裕也の横を通りすぎ階段をドスドスと上がっていってしまった。
「まさか俺のせい?」
 鈴と千夏に確認を求める裕也だったが、二人は大笑いしたまま裕也に一切目がくれていない。それどころか裕也の存在自体を忘れているようだ。
「………とりあえずもう寝よう」
 裕也は肩をガッカリと落としたまま階段をゆっくりと上がっていった。


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「疲れた。色んな意味で」
 ドアにしっかり鍵をかけ渚は崩れ落ちるようにベッドへと倒れ込んだ。
「それにしても鈴さんと千夏ちゃん。あんなに笑うなんてひどいよ。そりゃあ少し情けないかもしれないけど………だからってさすがに笑いすぎじゃない?」
 渚は文句を言いながら枕に八つ当たりしている。しかし、不思議と渚の心は安らいでいた。さっきまでブスッとしていた渚だったが、今は何故かニヤついている。
「………でも、なんか家族が出来たみたいで嬉しいかも。こんな風に自分の素を出したのは子供の時以来かな?」
 真っ暗な部屋。渚は誰かに話しかけているような喋り方をしている。そう、まるで隣に誰か座っているように。
 そのあとも渚は話し続けた。宿のこと、鈴や千夏のこと、そしてこれからのことを。
「…………これからやること沢山あるんだ。だから、とっても…たのし……みなん…………」
 渚はそのまま眠ってしまった。すやすやと寝息をたてる渚。
 渚は、いったい誰と喋っていたのだろうか…………。