渚は先程廊下で起こったことを千夏に話した。なんとも情けないことだが、このままではなにも関係がない千夏まで巻き込んでしまう。
「なら本当に裕也さんは悪くないんだ…………それより渚さんの意外なとこにびっくり」
 千夏は口を押さえて笑っている。
「ちょっと千夏ちゃん、笑ってる場合じゃないよ。私のせいで裕也さんが、ほら」
 千夏は渚が指指す方を振り向いた。そこには鈴からパイルドライバーを喰らっている裕也の姿があるのだ。
「んー!んー!」
「おら!さっさと吐きやがれ!」
 トマトのように顔を真っ赤にさせている裕也の背後には口が頬まで割けている魔女がいるのだ。
 渚と千夏は鈴の顔を見て絶句した。
「こ、恐い。恐すぎる。でもこのままじゃ裕也さんが」
 裕也は限界を迎えていた。目が既に白目を向いている。
「鈴さんストップ!」
 千夏は鈴に飛びつくと裕也から鈴を離した。裕也は崩れ落ちるように地面へと倒れこむ。
「なんだ千夏。今この痴漢野郎を成敗していたところなのに…」
「裕也さんは本当に悪くないんです!」
「え?」
 千夏は鈴を遮った。そんな千夏に鈴はポカンとした表情をしている。
「鈴さん。裕也さんは悪くないんです。実はさっき廊下で………」
 渚は赤面させながら先程のことを鈴に話した。無論これを聞いた鈴が大笑いしたのは言うまでもないだろう。
「クックッ。だからお前はあんな情けない格好をしていたのか」
「わ、笑わないで下さいよ。私ああいうの全然ダメなんですから」
 しかし、鈴の笑いが止むことはなかった。相当ツボだったのかヒクヒクとむせてしまっている。
 自分だけではどうにもならないと思ったのか、渚は隣にいる千夏に助けを求めた。
「千夏ちゃん。助けてよ〜」
「ウフフフ……はい?」
「うわっひどい!千夏ちゃんまで笑ってるし」
「すいません。だって………そんな理由で」
 千夏はそれ以上口が聞けないのか再び笑い出した。二人がいつまでも笑い続けるため、渚は大変不機嫌になってしまったのだ。
「二人とも笑いすぎだよ!もう知らないんだから!」
 渚はそう言い放つと失神している裕也をその場に投げ捨てた。
「いって!あれ?俺はいったい……」
 鈴のパイルドライバーにより記憶があいまいな裕也は隣に立っている渚を見て先程のことを思い出した。