「怖いよ〜。お化けなんているはずがないのに」
 渚は既に涙声である。床にだらし無くへたり込んでいるのだ。
 すると、突如渚の目の前のドアが開かれた。
「ひぎゃああああ!」
「な!?なんだあ?」
 二人の悲鳴が重なる。ドアを開いたのはどうやら男の人らしい。少し野太い声が渚をさらに恐がらせてしまっている。
「おい、大丈夫か?」
「ひぃ!だ、誰なの?」
 手を差し延べられた渚は恐くてその手を無視した。男は困っている様子である。
「おい!なんだ今の悲鳴は」
 渚の悲鳴を聞いて階段から鈴と千夏が姿を現した。しかしそこで二人が見たのものは、腰を抜かし目から涙をこぼしている渚の姿だった。
「裕也。これはどういうことだ?いくら彼女が出来ないからっていきなり新入りを襲うなんて…」
「ちょっと待って下さいよ!誰がこの子を襲ったって?」
 鈴の勝手な解釈を裕也は必死で否定した。しかし鈴と千夏は冷たい視線を裕也に向けている。この場合誰がどう見ても裕也が渚を襲ったようにしか見えない。
「と、とりあえずラウジンに行きましょう。そこでゆっくり説明しますから」
 裕也はそう言うと逃げるように下へと下りてしまった。渚は未だにへたり込んだままである。
「渚さん。大丈夫ですか?」
「う、うん。ところであの人誰なの?」
「それは下でゆっくり話しましょう」
 渚は顔を真っ赤にさせながら頷くのだった。


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 下におりた四人は早速裕也の取り調べ?を始めた。三人の向かい側にポツンと座らされている裕也は鈴からの厳しい問い詰めを受けていた。
「だから!俺はなんにもしてないですって!ドアを開けたらその娘が床に座り込んでいたんですよ」
「嘘つけ!この欲求不満野郎が。いくら溜まってるっからってよりによって渚を襲うとは」
「だから違うって!」
 二人は席を立ち叫び合っている。先程からこの繰り返しだ。鈴が問い詰め裕也が否定しまた鈴が問い詰める。二人の間に渚は立ち入ることが出来ないでいた。
「ねぇ千夏ちゃん。このやり取りいつ終わると思う?」
「いつもなら軽く一時間は続きますね。でも今日は渚さん絡みだから二時間はいくかも」
「二時間も!?やばいなぁ。裕也さんは全然悪くないのに」
「え!?それどういうことですか?」
「それがね………」