「うっ………」
 渚は下を向いて口を詰まらせてしまった。
「話の続きだ。………聖魔女シラセ。確かにコイツのおかげで私達魔女は人間に対抗することができた」
「ちょっと、あのシラセ様をコイツ呼ばわりなんて」
 渚は既に呆れていた。渚はまだ鈴と過ごして一日と経っていないのにもう鈴の性格を把握してきたようだ。
 鈴はそんな渚にお構いないしに話を続ける。
「しかし、今はどうだ?毎日人間達に冷たい眼差しを向けられるこんな世の中。今の私達の有様を生んだのは間違いなく聖魔女シラセだろ?」
 鈴の口調はいささか辛い。しかし渚も負けじと反論する。
「確かに今の私達の暮らしは苦しいです。人間達に煙たがられ生きる毎日。でも、シラセ様がいなかったら今の生活すらも私達にはなかったかもしれないんですよ?」
 渚はキッパリと鈴に言い放った。だが渚はすぐに後悔した。鈴の顔はまるで鬼そのものなのである。
(やばい!鈴さん完全にキレちゃってる)
 鈴はゆっくりと渚に近づくと両手で渚の小さな肩を握った。渚はビクッ!と体を震わせ背中を縮こませた。
「合格だ」
「へっ?」
 いきなりの鈴のギャップに渚はただポカンと口を開いたままだ。見るとテーブルではクスクスと千夏が笑っている。
「あの、合格ってどういう意味なんですか?」
 渚は何がなんだか訳がわからない様子である。
「渚。お前の答えにだよ」
「私の……答え?」
 鈴は満足した様子で微笑むと、ファッション誌を片手に自分の部屋へ戻ってしまった。
 ポツンと取り残された渚を見て少しかわいそうに思ったのか、千夏は宿題を一時中断させ渚の元に歩み寄った。
「あれ、私もこの宿にお世話になる時されたんですよ」
「そうなの?」
「はい。私も合格って言われたんですけど、今でもあの合格の意味が分かんないですけどね」
「そうなんだ。なんか鈴さんって不思議な人だね」
「まったくです」
 千夏はやれやれと首を振った。そんな二人はしばらく黙って見詰め合うと、糸が切れたように笑い出した。
「アハハハハハハ!」
「ウフフフフフフ!」
 二人の笑い声はしばらく止まることはなかった。


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 ソファーに肩を並べている二人は楽しそうに雑談している。
「なんで千夏ちゃんはこの宿に下宿してるの?」