その〝茜〟と呼ばれたその人は、お姉ちゃんに怒鳴られるとわかりやすく体をびくん、とはねらせる。

茜っていうんだぁ…。


まだ肩を揺らしたままでいるその『茜さん』を見つめながら、私はなんだかぽーっとしてしまう。

こっち、また振り返らないかな。


「ちょっと茜! はー、ムカツク! …あ、ごめんね陽? きっとこいつら脳みその半分がシワなしのつるつるだから。あ、純都以外」


「えぇ~、なんで純くん以外?」

「純都はやさしいから」

「…俺だって優しいよ?」


ね、陽ちゃん?

私に振られても困る…


「こら! 陽に振るな!! …ていうかあんたら…この前アタシが言ったこと、覚えてる?」


お姉ちゃんの語尾が段々と黒いオーラに包まれていく。

うつむき加減にちょんまげさんや茜さんをにらみつけた目はすでにこの世のものではなくて。


「………」

「………」


その純都さんという無表情な彼以外、皆一気にマズそうな顔になる(茜さんはあくまで予想だけど)。



「えへへー☆ 陽ちゃん、なんかごめんね? んじゃあ俺たち女の子達とデートあるから、ここらへんで」


「え、あ、はい…?」


ちょんまげさんはなぜか焦りだした。

『女の子とデート』なんて、この人達からすれば日常茶飯事って感じなんだけど、今の言葉は明らかに嘘だと思った。



「ばいばい」


最後、嵐のように去って言った彼らは、外でも多くの視線を集めて、そそくさと歩いていってしまった。


「………?」