張り付けられるもんはなんでも張りつけとく。
それがあたしだから、今は笑顔を張りつけとく。
「こんにちは」「お久しぶりです」
そんなことばかりを何度も言った。
「……亜美様」
一段落して、ウェイターから水をもらい、ちょっと休憩しているときに佐伯さんが小さな声であたしの名前を呼んだ。
「ん?」
「……一度、お部屋に戻りませんか?」
「へ?さっき戻ったばっかじゃん」
おかしなことを言うもんだ。
「ですが……」
「あたしなら疲れてないし、大丈夫だよ」
「いえ、そういうわけでは……」
焦ってる。佐伯さんが。
めずらしく。
「久しぶりだね、亜美」
ゾクッ
突然後ろから聞こえた声に、いっきに鳥肌が立った。
「……」
「あれ?振り向いてもくれないの?」
ふざけた調子のこの声。
明らかに、あたしの予想通りの人物だろう。
「……かな」
振り向くのが怖いと思いながら、ゆっくりと振り向いた。
「やぁ、亜美。俺のことをまだ“かな”って呼んでくれるんだね」
最悪な人物に出会ってしまった。