「何もねえよ」
「ふーん」
「何で?」
「だって、すごい笑ってるから」
笑ってるか?
ってか、俺が笑ってたとして、
何で朱里がそんな驚くんだよ。
そんなことを考えて、
俺は吹き出して笑ってしまった。
「何だ、それ。俺が笑うとそんな変か?」
「変っていうか、そうじゃなくて…っ」
慌てる朱里を見て、
何か一瞬考え込んでしまって。
「あー、ってか、ごめんな」
思わず謝った。
あれから色々考えたけど、
やっぱり丘谷さんがいるのに、
俺図々しかったかなって。
勝手に自己嫌悪で。
会ったら、謝ろうって。
そう思ってたから。
「え?」
「いや、電話とかして、悪かったなって」
「え、何でっ…」
そこに朱里の携帯が鳴って。
慌てて謝る朱里を見て、
相手は中山か石黒だなって。
「中山?」
「ううん、麗華。早く来いって」
「そっか」
ここで、勇気が出たら。
あの時はごめん。
好きだって。
そう言えたらいいのに。
「じゃ、またな」
「あっ…うん、じゃあね」
煮え切らないような朱里を、
横目で見て背中を向ける。
歩きながら、
丘谷に勝てねえのかなって。
ずっとそんなことを考えてて。
「朱里!」
勝手に振り返って、
ポケットに入ってたカイロを、
朱里に向けて投げた。
「やる」
「えっ…」
そういえば、手擦ってたなって。
俺は朱里がカイロをキャッチしたか、
確認せずにその場を去った。