『十夜からのおめでとうは、2回目だね』
「来年も言う」
朱里のためなら、
何回でも祝ってやる。
毎日でも、言ってやるよ。
『本当?』
「約束してやる。絶対、言ってやるから」
そう言うと、
嬉しそうに笑った朱里は、
この間ね、と話を続けた。
他愛のない会話だったけど、
俺には楽しくて、幸せで、
たまらなかった。
「そろそろ寝るか?」
『あ、…そうだね』
きっとこれは、
俺の役目じゃなくて、
丘谷さんの役目で。
俺がしていることは、
ただの勝手でしかない。
「じゃあ、またな朱里」
もう少し電話してていいか?って。
今から会いに行っていいか?って。
言えたらいいのに。
『うん、ありがとうね』
「別に大したことじゃねーよ」
来年は目の前で祝ってやれたら
いいなって。
抱き締めてやれたら、
もっといいなって。
『おやすみ、十夜』
「ん、おやすみ」
おやすみを、
顔を見ながら言えたら、
いいのになって。
そんなことを思いながら、
朱里との電話を切った。
静寂な室内を、
俺の溜め息と。
「ちょっと、十夜!早く年賀状書いてってば!」
全くもう、という
ばばあの声で響き渡った。
この幸せな時間が
一気に崩れた気がして。
「うるせぇな、くそばばあ」
母親に八つ当たりする、
俺だった。