「休憩、終わるから」






「待っててもいい?」






きっとこの言葉が。


この声やしぐさが、


男からしたら可愛くて


仕方ないんだと思う。


だけど俺は、


微塵も思わなくて。






「待ってられても迷惑だから」





俺は咲坂の手を振り払い、


店の中に戻った。


外で待ってようが、


泣いてようが。


俺には関係ない。


俺の頭の中は、


あいつのことでいっぱい


なんだから。






「藤田くん、お疲れ様」






「お疲れ様です」






バイト終わりの時間。


店長と一緒に、


店の片付けや閉め作業をする。







「看板入れて来てよ」






「あ、はい」






そう言われて、


駆け足で外に出る。


寒い風がドアを開けると同時に


吹き込んできて。







「十夜…」






「何やってんだよ、まじで」






外に出た俺に駆け寄ってくる。


咲坂の頭には、


うっすら雪が積もっていた。







「どうしても十夜と、」






「俺の気持ち、もう分かってんだろ」







咲坂の頭の雪を払うわけでもない。


泣いている涙を、


拭いてやるわけでもない。


そんな俺は、


おかしいんだと思う。






「すいません。タクシー1台お願い出来ますか?」






俺はポケットから携帯を出し、


タクシー会社に電話した。


これが、俺に出来る


最大のことだ。