笑いかけてくれる彼は、


どんな心境だったんだろう。


そんなことを考えながら。


また、涙を流した。






「諒司先輩は自分を最低だって言うけど。全然最低なんかじゃない。あたしだよ、最低なの」





「やめろ、朱里。そんなこと言うな」





「あたし、諒司先輩がいてくれたから、ここにいる。諒司先輩といて、幸せじゃないことなんて1つもなかった。すごくすごくっ…」






言葉の途中で。


あたしの唇に、ふわっと


諒司先輩の唇が重なって。






「愛してる、朱里。ずっと、好きだ」





「先輩…」





「もし、この先、何かあった時は。お前をもらいに行くから」





頬に当たる諒司先輩の手が、


温かい。


この温もりは、


今日でおしまい。







「俺は、朱里の幸せを祈ってる。ずっとずっと、想ってる」






「ごめんなさい。先輩、ごめ…なさ、」





「辛かったらいつでも連絡して。飛んでくから」







この優しさに、


何度助けられたのかな。


この人の温かさに、


何度甘えてきたかな。







「あー、離したくねえ」






彼の腕の中を、


離れる決心が出来なくて。


しがみついたまま、


腕を解けない。






「好きだ、朱里」





「先輩…」





「好きだ、大好きだ。今でも、好きだ朱里」






痛いほど、


伝わる気持ちに。


答えてあげられなくて。


あたしは、もう、


何も言えなかった。







「まもなく電車が参ります」






駅の方からアナウンスが聞こえると。


諒司先輩はあたしを自分から放し、


頭を撫でると。






「俺は先に帰る。少し後にまた電車が来るから」





「やだ、一緒に…」





「ここで、ばいばいしたい」






な?と言う彼は。


もう1度あたしに軽くキスをして。


幸せだったと言い残し、


あたしに背中を向け去って行った。