「来て」





ゆっくり差し伸ばす手を、


あたしは静かに取る。


諒司先輩はしっかりと握ると、


階段を下り、砂浜に向かった。


ザザーっと、波の音が響く。


心地いい音に、心落ち着かせる。


こんな場所あったんだ。






「気持ちいいね」





「だろ?ここ、俺のお気に入り。子どもの頃さ」







諒司先輩は、


ぽつりぽつりと思い出を


話してくれる。


昔ここで泳いだこととか、


海で溺れかけたこととか。


諒司先輩と一緒にいれるのが、


あと少ししかないと思うと。


少し寂しくて。


また勝手に、涙が込み上げる。


本当にこの人を、


手放していいのか。


夕日が少し沈んで、


辺りが薄暗くなってきた時。






「ここで、一緒に泳ぎたかったな」





「え…、」





「言っとくけど俺、花火を彼女となんてしたことないんだぜ?」






声のトーンが、


急に低くなって。


すごくすごく、


伝わってくる。








「なぁ、朱里」






諒司先輩の。


想い。






「朱里はさ、いつも笑ってくれてて。本当、一瞬で一目惚れした」






「先、輩…」





「コンビニ、だったよな。初めて会ったの」






押し寄せる涙が。


止まらなくなった。


止められなくなった。


あたしという人間は。


どうしてこんなに最低なんだろう。


諒司先輩を、


放すのが間違いなんじゃないかって。


そんなことを思い始めて。







「俺さ、朱里と一緒にいて嫌なこと、1つもなかった」





諒司先輩は、


すごく切なそうな声で、


1つ1つ言葉に出す。







「でも謝りたいことはたくさんある」





「謝、る…?」





「男に襲われた時、助けに行けなくてごめん」





薄暗くても分かる、


先輩の真剣な目。


あたしは余計に、


寂しくなる。





「学校にあいつら連れてって、怖い思いさせてごめん」





「諒司、先ぱ…っ、」





「いっぱい我慢させて、ごめんな。朱里」






ひどく。