「可愛いな」





「でしょ!」




「じゃなくて、朱里が」




「あ…、」






ふいに、そんなことを


言うものだから。


顔が赤くなるのを


隠せず、俯く。








「よし、買うか」





「え、でも…」





「記念。ちゃんと大事にしろよ?」






あたしの額をつんと、


軽く突くと。


先輩はあたしが可愛いと言った


キーホルダーを手に取り、


レジに向かった。






「彼女さんとつけるんですか?」





遅れてレジに行くと、


店員さんに声をかけられていて。





「そうっす。初めてなんですけどね、そういうの」





「いいですね、彼女さん可愛い」





店員さんは、あたしに


会釈してくれる。


その笑顔に、あたしも


思わず笑って会釈。






「いや、もう本当俺にはもったいなくて」





「すごく大事にされてるんですね。羨ましいです」






2人のやり取りを聞いただけなのに。


すごくすごく胸が熱くて。


この人を。


丘谷諒司を。


何で愛せなかったのか。


自分が許せなくなった。






「すごく楽しかった」





「遊園地なんて子どもの頃以来だった」






帰りの電車の中で、


ガタンゴトン揺られながら


2人肩を並べた。


夕焼けがすごく綺麗で、


隣の諒司先輩が紅い。






「次は白浜前、白浜前です」






そんなアナウンスが聞こえた時。


うとうとしかけていた


あたしの手を引いて。


降りるぞ、と一言言うと、


諒司先輩は白浜前で途中下車した。






「…海?」





「そう、海」






目を細めて前を見ると、


駅の下は砂浜になっていて。


その向こうに夕日に照らされて、


紅く染まっている海があった。