「あたしね、十夜にキスされたの」




少し驚いていて、


でも嬉しそうにあたしを


見つめて。


よかったじゃない、と。


そう言った。





「その時にね、十夜のことずるいと思った。里菜ちゃんいるのにって。キスなんかって」





「そうだね」





「でも、諒司先輩に申し訳ないって思えなかった。あたしこそ、ずるいことしてるんだなって」





「朱里…」





ごめんねが言いたいわけじゃない。


何かしたくても、


何か出来るわけじゃない。


だけどあたしは、


自分のしたことの間違いに


ようやく気付いた。


諒司先輩の手を取ったことが


間違いじゃない。


十夜から自分を離したことが、


大きな間違いだったんだ。


気付くのに、


こんなに時間がかかったよ。






「でもあたし、ちゃんとする」





「うん」





「もう、逃げない」






もう逃げない。


十夜を、想うから。


いつか届いたら、


それでいいから。









「朱里!ごめん!」






待ち合わせの場所に、


10分前に着いた。


たった10分なのに。


待ち合わせ時間丁度に来る諒司先輩は、


必死に走って来て謝るんだ。






「遅れてなんかないですよ?」





「いや…朱里…いたからっ…」





こんなに息を切らして。


こんなにあたしのために、


走って来てくれて。


あーもう、


変に涙が込み上げる。






「行こう!」





「わっ」





諒司先輩はあたしの手を取って、


歩いて行く。


何で待ち合わせ場所が、


駅なのかなと思ってたけど。






「俺が出すから!」






電車に乗るためだったのか。


諒司先輩は財布から、


2人分のお金を出して


切符を買う。







「窓側どうぞ」





あの時と。


あたしの誕生日の時と同じように、


諒司先輩はあたしを窓側に


座らせてくれる。


少し違ったことは、


手を繋がなかったことと、


行き先を尋ねなかったこと。