「今から来れないか聞け」
小さい声でそう言う十夜。
あたしは言う通りにそう告げる。
すると、諒司先輩は。
『悪ぃ、抜けられねーわ。何かあったか?』
「いや、全然大丈夫です。何にもないんで」
そう言うと、
いきなり十夜が電話を取り。
「藤田ですけど。自分の女が来てくれって頼んで、来ねぇって、どんな神経してんすか?」
すごくすごく、怒ってて。
あたしはその姿を見て、
ほっと気が抜けて。
自然と涙が流れた。
きっと、十夜が怒ってくれて、
嬉しかったのもある。
だけど、それだけじゃなくて。
安心したっていうか、
さっきあんなことがあったっていう、
実感が沸いたというか。
「もういいっす。じゃ」
十夜は電話を切ると、
あたしに携帯を突きだす。
遠慮気味に受け取ると、
十夜はふと。
「んで、あいつなんだよ」
あたしに向かってそう言った。
その言葉の意味が分からず、
首を傾げると、
十夜は自分の携帯を取り出し、
誰かに電話をかけ始めた。
「石黒、お前、今家?」
第一声で、誰に電話してるのか
すぐ分かった。
別に十夜と2人でいいのに、
気を遣って人を呼ぼうとする。
そんな優しさが、
たまらなく好きで。
「石黒が今から来てくれるって」
「うん、ありがとう」
目の前に十夜がいる。
それって、あたしにとって
すごいことなんだよ。
ね、十夜。
ごめんなさい。
あの夜。
十夜に想いを告げて、
諒司先輩と付き合ったあの夜。
十夜を想って泣くのは、
最後にしようと思った。
もう想うのはおしまいに
するって誓ったのに。
簡単に破っちゃった。
やっぱり無理だった。
ずっと、嘘ついてたよ。
十夜が、好きなんだよ。