確かにそこに十夜がいて。


5人に囲まれて、


殴り合っている。


十夜が殴られることもあった。


でも、圧倒的に十夜の方が強くて。


一瞬で、5人の男の人たちは、


その場で地面に倒れた。


十夜はカメラがあることに気付いたのか、


地面に落ちているカメラを


思い切り踏みつけて粉々に


壊してくれた。


5人の男の人は、


悔しそうに空き地を


出て行った。






「朱里!」





同時にあたしに駆け寄る十夜は、


こんなに寒いのに、汗まみれで。


口の中の布を取って、


どこかへ捨てた。





「十夜…どうして、」





「何も話すな」





十夜はあたしを起こすと、


目の前にしゃがんで


手を握りしめてくれた。


微かに、十夜の手が震えている。






「ごめん、朱里」





十夜はそう言って、


あたしのシャツのボタンを


下から1つずつはめてくれる。


十夜が謝る理由は、


よく分からない。


だって、十夜は


何も悪くない。






「謝んないでよ…、来てくれて、嬉しいのに」





「俺がカタつけっから」





十夜はそう言って、


優しくあたしを抱きしめてくれた。


汗だくな十夜は、


息を少し切らしていて。


こんなになってまでも、


あたしを助けてくれた。


もう、それだけで、十分だよ。






「朱里、丘谷さんに連絡しろ」





「え?」





いいから、と電話するよう


促される。


十夜なりの、


気の遣い方なんだろうなって。


そう思うから、言う通りに


電話することに。







「もしもし」





『お、朱里。今丁度休憩中なんだよ』





何も知らない諒司先輩は、


あたしからの電話に


嬉しそうに話す。


もう気分は落ち着いていて、


あたしも普通に話す。