「ごめんね、本当」





言葉の正しい使い方を


知らないこの人たちは、


へらへら笑いながら


楽しんでいる。


腕は後ろで組まれているから


手は出せないし。


足は押さえられてて、


なかなか上手く動かせない。


知らない内に、シャツの


ボタンが外されていて。


露わになった肌に、


冷たい空気が触れる。


3月なのに、変な汗が出る。


こんな時なのに、考えるのは。


諒司先輩じゃなくて。


十夜だ。


おかしいって分かってる。


普通は違う。


普通は、諒司先輩に助けを


求めるってことくらい、


分かってるんだけど。


あたしは、それが、出来ない。






「綺麗だね、朱里ちゃんって」





そんな言葉を、もう聞き流せるほど


冷静になっていた。


大人しくしていれば、


何もかもが済む。


抵抗しなければ早く終わる。


そしたら助かるから。


そう自分に言い聞かせるので、


精一杯だった。


でも、やっぱり。


出来るなら誰か助けてほしくて。


出来るなら、十夜に会いたくて。






「早く終わらせろよ」





「待てって、これからだろうが」






上に乗った男の人は、


そっと下着に手をかける。


少し指先が触れて、


体が強張る。


触れられたこともないのに。


触れられたくもないのに。


叶わないって分かってても、


願ってしまう。


どうかお願いだから。


何でも捧げるから。


だからどうか。


十夜に会わせて下さい。


どうか、どうか。


十夜に…。






「おい!やべーぞ!」






その時。


うぐっと、遠くから聞こえて来て。


誰かが地面に倒れる音が聞こえた。


上にいる男の人の表情が変わって、


周りの人たちも焦り始めていて。





「朱里!」





聞こえた声が。


紛れもなく、十夜だった。





「てめーら、全員殺す!」





十夜が、来てくれたの?


十夜がそこに、いるの?


神様が、叶えてくれたの?






「せっかくお楽しみの最中だったのに」






上に乗っていた人は、


あたしから降りると、


十夜の方に向かって行った。


足を持っていた人も


向かって行って。


強張った体は、思ったよりも


言うこと聞かなくて、


起き上がることが出来ない。


必死に首だけ横に向け、


状況を把握する。