「彼女がいるのに、朱里を想うなんて、間違ってる」





「っるせーんだよ」





「1人の女も大事に出来ない男に、朱里を任せられない」





痛いと思った。


俺がしたことが、こうなってて。


これが、現実で。


どうにも、出来ないことなのかって。


悔しくて、情けなくて。





「そういうことだから。もう、朱里を諦めてくれ」





「…っ、」






無理だ。


勝てっこねえ。


丘谷の言う通り、俺は。


朱里を想っちゃいけなかった。


もう何が正しいのか、


分かんねえよ。






「朱里…」





丘谷が去ってから、


どれだけ時間が経ったか


分からない。


ずっと、窓の外を見つめて。


ぼーっと、してる。






「十夜……」





空耳かと思った。


だって、愛しい声が。


聞きたかった声が、


聞こえて来たから。






「お、朱里」





何もなかったかのように、


普通に振る舞う。





「何してるの、こんな所で」




「人混み苦手。実際もう帰りたい気分」




「あ~分かる。人が多いのは嫌だね」





こんな時でも、


やっぱりこいつは可愛くて。


こんな俺が、


こいつを苦しめてるのかって。


何で、どうして苦しめてたのか。


考えれば考えるほど、


俺まで苦しくなってきて。