学校帰り。
あたしは、友達と駅で別れて一人で本屋に行く。
探している本があるわけじゃないんだけど・・。
今日はなんとなく寄り道したくて。
・・・とは思ったものの・・・
うーーーん。
目的なくブラブラするのって意外とシンドイ・・。
やっぱり家に帰ろう・・・そう思った時。
ふと前を見ると、一人の男の子とバチっと目が合う。
「なぁ・・・お前さ・・」
へ?!あたし?!
あたしはキョロキョロとまわりを見る。
あたしのまわりには誰もいないし・・・
ってことはやっぱりあたし?!
チャラいし、やんちゃそうだし・・あんまり得意な感じの人じゃないし・・
とりあえず無視してスルーしよ・・・
そのままその人の隣を通り過ぎようとした途端、
ガシっ!!と腕を掴まれた。
「きゃぁ!!」
「無視すんなよ。」
な、なんなの?!この人・・・
腕を掴む力が強いし、あたしを見る目が・・・怖い。
あたし・・何される??
カツアゲ??
それとも・・・
うぅ・・・・泣きそ・・・・怖い・・・・
「ッチ・・泣くなって。」
「・・・・・・」
「お前さ、名前何?」
「高・・田・・理紗・・」
「何年?」
「・・2・・年・・」
「男は?」
「へ?」
「男いんのかって聞いてんの!」
「い・・ませんけど・・?」
「そっか・・・」
・・・なんなの?!早く腕離してほしい・・けど、そんな事言えない・・・
「あのさ、・・・」
「は・・い?」
その人はしばらく何かを考える素振りをしてから、あたしの目をジッと見て言った。
「俺と付き合ってくんない?」
はい?
《俺と付き合ってくんない?》って??
初対面の人にいきなり腕を掴まれて。
《俺と付き合ってくんない?》って??
「ちょっと携帯貸して?」
その人はあたしの制服のポケットから勝手に携帯を取り出して、
自分の携帯をいじりだした。
あたしはその慣れた手つきに見入ってしまっていた。
「よし。これでOK。俺、広田京真(けいま)。リサと同じ2年だから。」
広田くんって人はあたしの携帯をまたあたしの制服のポケットに戻して言った。
「は・・はぁ・・・」
頭がついていかない・・・・んですけど?
「とにかく、俺たちは付き合うことになったんだから、よろしく。」
「え?!どういうこと?!」
広田くん、頭おかしい・・・??
「じゃぁ、また明日。
あ、俺、メールとかたくさんもらわないと淋しくなるタイプだからよろしく。
挨拶とか、どこにいる~とか、絶対メールしろ!!
ちなみに毎日会いたい派だから。って言っても学校帰りにツレと遊ぶ時もあるから、そん時は夜になるけど・・・」
広田くんは、そう言うとそのまま去っていった。
あたしは、ポカーーーンと口を開けたまま。
・・・ブブブっブブブっ・・・
ポケットの携帯がバイブする。
携帯を見ると、ディスプレイに【京真】と出ていた。
あんな短時間であたしの携帯にも登録してたんだ・・ちょっと感心。
メールを開くと、【さっきの事は必ず守れ!】と一言。
これは・・・夢??リアル??
あたしはそのまま返信する事なく携帯を閉じた。
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その日、あたしは広田くんにメールをする事はなかった。
次の日。
あたしはいつもと同じ時間に家を出て、同じ時間に電車に乗り学校にむかった。
いつもと違ったのは・・・
学校の前に広田くんがいたこと・・・
広田くんは、門の横にもたれながら携帯をいじっている。
うちの学校のみんなが広田くんに注目しながら学校に入っていく。
なんで広田くんがいるの?!?!
あたしと広田くんとの距離は20mくらい。
幸い、広田くんはあたしに気付いていない。
どうする・・・?
裏に回って学校に入る?
それとも、携帯に視線がいっているうちにダッシュ?
どうする・・?
そんな事を考えていると、「りさーーー!!おっはよ♪」と親友祐美の声・・・
広田くんは、その声に反応してバッとあたしの方を見た。
あぁ・・・選択肢が無くなった・・・
「りさ!!なになに?なんで突っ立ってんの??聞いてんの?りさ!!」
祐美はこんな時に限って、あたしの名前を連呼。
広田くんは携帯片手に険しい表情で一歩一歩あたしに近づく・・。
あたしはバッグを盾にして一歩一歩後ずさる・・。
祐美はあたしたちのそんなやり取りを見てポカンとしている。
「コラ、りさ・・なんで約束守れねぇ?」
「・・って言われましても・・」
「ちゃんと連絡よこせって言っただろ?」
「・・・あの・・・ホンキ??」
「ちょっと!リサ!!誰このイケメン!!」
祐美は興味津々で聞いてくる。
「・・・わ、わかんないの。昨日いきなり・・・」
「《彼氏》だろ?なんで隠す?」
「か、か、か、か、彼氏?!?!」
祐美は発狂する・・・
「なぁ、りさの友達?りさ、今日学校サボって大丈夫?」
広田くんは祐美にバカな事を聞いた。
祐美はサボりとか嫌いだから絶対拒否してくれるはず・・・なのに・・・
「はい♪大丈夫でーーーす♪」
「ちょっと!!祐美!!」
有り得ないんですけど??
「んじゃぁ、決まり♪」
広田くんはそう言うと、あたしの腕をガッチリ掴んで連行しようとする。
「ちょっと待って!!祐美助けてよぉ!!」
あたしは祐美を見たけど、祐美はニッコリと笑いながら手を振った。
「いいツレだな♪」
「・・・・・・」
一体どうなってんの?!意味わかんないんですけど・・・
あたしは、そのまま広田くんに腕を掴まれて歩く・・・
「あの・・・腕・・離して?」
「ダメだ」
・・即答。
「どこいくの?」
「わかんね」
・・即答
「帰りたいんですけど・・・」
「無理」
・・即答。
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気がつけば、あたしは全く知らない高級マンションに連れて行かれていた。
・・・コレってやばくない??
広田くんはオートロックのナンバーを押し、慣れた様子で開ける。
あたしもそのまま中に連れて行かれた。
「・・・どこなのここ・・」
「俺ん家」
「えぇぇぇぇ??ヤダ!!帰る!!」
「ダメって言ってんじゃん?」
家なんかに入ったら何されるかわかんないし・・・
あぁ・・・もうあたしがあたしじゃなくなるかもしれない・・・
お母さん・・ごめんなさい・・・
エレベーターに乗せられ、12階で降ろされる。
エレベーターを降りるとすぐ目の前にドアが一つ。
どうやらワンフロアー、1軒みたい。
広田くんは玄関の鍵を開け、あたしを中へと促した。
もちろん、あたしはすんなり入るわけもなく、玄関でフリーズ。
「何もしねぇから入れ」
広田くんはクスっと笑って言った。
《何も》って何のこと言ってんの?!
入って、一体どうするの?!
あたしは玄関でオロオロしているだけ。
「あぁ・・もう!!めんどくせぇ!!入れってば!!」
広田くんは明らかにイラっとした感じであたしを引っ張り込んだ。
「きゃっっ!!」
「俺が女を部屋に呼んで拒否ってんの、りさが初めてだわ・・」
広田くんはまたクスっと笑う。
「そ、そんなこと言われても・・・男の子の家って初めて入るから・・・」
「マジ??まぁ、いいから入れ」
「お邪魔します・・・」
あたしは観念して中に入った。
めちゃくちゃ広いリビングに通されて、あたしは棒立ちになる。
「あ、適当に座って?」
「う・・うん・・・」
適当にって言われても・・とりあえずあたしはソファーの端にチョコンと座った。
「コーヒーでいい?」
「う・・うん・・・」
広田くんはそう言うとキッチンに入って行った。
何かめちゃくちゃ緊張するんですけど。
あたしはぐるっと部屋を見渡す。
生活観が・・ない。
家具とか見る限り・・一人暮らしな訳ではなさそうだけど・・。
「はい。砂糖とミルクは自分でやって」
目の前にコーヒーカップが置かれる。
「あ、ありがと・・」
って。お礼言う必要ないよね・・・勝手に連れてこられてるんだし。
広田くんはあたしと少し距離を置いて、ソファーに座った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙・・・
とにかく、どういうことか聞かなくちゃいけない。
でも・・・広田くんを見て話す勇気がない。
すると、広田くんが口を開いた。
「あのさぁ、昨日約束したことだけど何で守れないの?」
「・・約束?」
「俺、メールとかないと淋しいタイプだからって言っただろ?」
「あ・・・はぁ・・・」
「これからはちゃんとしてくんない?じゃないと毎日りさの学校いくし?」
「えぇぇぇぇ!!それはやめて!!」
「・・そんなに拒否られるのも傷つくけど」
広田くんはコーヒーカップを口につけながらチラっと横目であたしを見る。
「あの・・・どうしてあたしの学校わかったの?」
「は?制服見たらどこの学校か・・くらいわかんじゃん」
「そ・・そうなんだ?」
・・本題・・ちゃんと聞かなきゃ・・
「あの・・・ 「あのさぁ、これからは朝、昼、学校帰りは絶対メールしろ。あと、寝る前も。学校帰りは極力俺と会うこと。いいな?」
「・・・・・・」
だから・・その理由を知りたいんだけど・・
あたしは黙って俯く。
すると急に両肩を掴まれ、グイっと広田君の方に向けられた。
・・・・・あっ・・・・・
初めて広田くんの顔をジックリ見た。
綺麗な力強い目・・すらっと通った鼻筋・・薄くて妖艶な唇・・
こんなかっこいい人・・はじめて見たカモ。
広田くんの視線にあたしは意識が朦朧とした。
呼吸をするのを忘れるくらい、広田くんに見惚れてしまっていた。
胸の奥からドキドキって音が波打つのがわかる。
・・なに・・なんか・・吐きそうなくらい胸が苦しいよ。
「りさ?返事は?」
「・・はい・・・」
あたしは無意識に返事をした。
「よし。ってことで、りさは俺の彼女だな。さっきの約束は守れよ。」