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今朝、京真がいた場所に・・・・いた・・・・
携帯をいじらず、門から出て行く生徒を一人一人確認するように立っている。
学校から出る女の子がみんな京真を見ている。
「今朝の人がまたいるよ!!」
「ホントだ!!かっこいい♪」
こそこそと話す声が聞こえる。
「京真っっ!!」
あたしは、思わず大声で叫んでしまった。
あたしの声に気付いた京真があたしを見つける。
まわりの生徒たちもあたしに注目した。
「りさ!!おせぇって!!3分超えてる」
京真はあたしに向かって怒った口調で・・でも優しい笑顔で言った。
「ごめん・・・なさい。急いだんだけど・・・」
「・・うん。急いだってわかる。髪・・ぼさぼさ」
京真はサラッとあたしの髪を手で整えた。
「あ・・・・」
あたしはそれだけで顔が熱くなる。
「りさ、髪綺麗だな♪サラサラだし。それに・・・」
・・・ふわっっ・・・
「・・・甘いにおいがする」
片手であたしの肩をギュッと引き寄せ、あたしの前髪に唇を寄せた。
・・・あぁ・・・どうしたらいいの?
立ってられないくらい、ふわふわする・・・
「・・あ、あの。とりあえず・・移動しない?ココは・・ちょっと・・・」
あたし、学校帰りのみんなにガン見されてるし・・・。
「そうだな。今から、ちょっと行きたい店あるからついてきてくんない?」
京真はそういうと、あたしの手を取り歩き出した。
あたしは目的地に着くまで繋がれた手に神経を集中していた。
男の子の手って、関節が太くて、大きくて・・繋いでるだけで安心できるんだ・・・
京真の手はとても温かい。
あたしの学校から電車で2駅行った所の駅前のお店に着く。
喫茶店・・・なのか、なんなのかわからないお店。
高校生が行くような雰囲気ではなく、どちらかというと、年配の方が出入りしそうなお店だった。
「着いた。入って?」
「う、うん。」
重いドアを開けると、中は薄暗い雰囲気で。
ぼんやりあちこちにオレンジ色の灯りが点いている。
目が慣れてくると、壁一面に漫画が並べられている事に気付く。
そして、BGMはジャズ。
店の中に入り、ぐるっと一面を見たところで、
「京真!!」と、京真を呼ぶ声が聞こえた。
「わりぃ!遅くなった!!」
京真は、あたしの手を握ったままその声の主の方へあたしを連れて行く。
「おぉ?この子が例のリサっち??」
これまた、京真に負けないくらいのイケメン君があたしを上から下まで見る。
「そ。こいつがりさね。・・でコイツが・・ 「俺は、山井恭介!京真と同じクラスね。よろしくリサっち♪」
山井君はそう言うと、あたしに軽くハグをした。
「ひゃっっ!」 あたしは後ずさる。
「リサっち、なんか、新せーーーん♪そういうの俺的にはたまんないかも♪」
山井君はにっこり笑う。
「おい!恭介!!りさに手ぇだすなよ?わかってるか?!」
「プッ!!京真、そうムキになんなって♪」
京真は、山井くんの言葉にふんっと鼻であしらって、あたしを席に座らせた。
「ココさ、俺と恭介・・あと、何人かがいつもたまってる店なんだわ。マスターは理解ある人でさ、学校サボって来てても何にも言わなくて。
まぁ、タバコだけはさすがに文句言うけど・・・」
「そ・・そうなんだ・・・」
「俺ら、たいてい毎日ココにいるからさ、りさ、これからはお前もココに顔出せよ?」
「え・・?あたしも??」
「当たり前だろ??」
・・・当たり前なんだ・・?どうしよ・・・
あたしは俯いて考え込む。
「わかった?」
京真があたしの顔を覗き込んで返事を求めた。
薄暗い部屋で、京真があたしを覗き込む。
そんな京真の瞳にあたしはまた動きを封じられた・・・
「う、うん・・・わかった・・・」
あたしは小さく頷いた。
「・・にしてもさぁ、リサっちって、京真がココに連れてきた歴代の女とタイプ全くちがうよなぁ♪ いつもは、エロエロな女か、ギャルギャルな女だもんなぁ」
山井くんがまたあたしをマジマジ見て言った。
《歴代の女》
《エロエロな女か、ギャルギャルな女》
山井くんの言葉があたしの頭をぐるぐる回る。
京真は今まで何人の女の子と付き合ってきたんだろ?
みんな・・・あたしと正反対のタイプじゃん・・・
そうだよね・・京真みたいな子があたしみたいな普通な女の子と・・なんて有り得ないよね。
エロエロで、ギャルギャルな子がいいとは思わないけど、でも、今のあたしよりはいいかもしれない・・・
なんだか、自分が恥ずかしい・・・
「恭介、うっせーよ!余計な事言うな」
京真はそんなあたしの気持ちに感づいたのかそう言った。
「変な意味じゃなくてさぁ。リサっちは、なんて言うか・・ナチュラル派っていうか・・。」
山井くんがおろおろしながらフォロー・・。
「い・・いいの!!あたし、そんなに恋愛とかした経験ないから、自分に気を遣うとかできてなくて・・・だから・・・地味っていうか・・」
はぁ・・自分で言ってて情けなくなるよ・・・
「おっすーー♪なんだ?京真も恭介もきてたんだ?」
「あれ?ホントじゃん♪てっきり、京真は女んトコかと思った♪」
三人が気まずい雰囲気の中、京真の友達らしき子が二人店に入ってきた。
「ケンタ!!ヒロト!!」
山井くんは、助かったぁ~と言う感じに二人に近づいた。
その二人があたしの存在に気付いて、驚いたような顔であたしを指差す。
「あれぇ?この子もしかして・・・リサっち?」
「マジ?京真。」
あたしは俯いてしまう。
京真の友達に恥ずかしくて顔を上げられない・・・
「そう。コイツがりさ」
京真はその二人にも普通にあたしを紹介した。
「へぇ~♪」
二人はあたしに近づいて、あたしの顔を覗きこんだ。
「この子、モロ恭介のタイプじゃね??」
「うんうん。俺もそう思った♪♪」
二人はニヤっと笑って山井くんを見る。
「う、うっせーって!変な事言うなよ!!京真にシバカレちまうだろぉが!!」
「うわぁ!!カナリの動揺!!やばいねぇ、三角関係かぁ??」
「っテメェら・・・いい加減にしろよ?!」
山井くんは顔を真っ赤にさせながらケンタくん、ヒロトくんに詰め寄る。
「・・恭介・・ホントのところはどうなんだ?」
京真はそんな山井くんをギロっと睨んで言った。
・・・なんか、雰囲気悪い・・・
あたしなんかタイプな訳ないのに、タイプだ・・なんて言われて。
「まぁまぁ♪恋愛は自由ですから♪」
そう言いながら、ケンタくんが京真と山井くんの間に入ってその場を治めた。
「・・・便所いってくる・・・」
京真はそのままトイレへ消えた。
するとケンタくんがあたしの元にやって来て、
「リサっち。俺ケンタね。これからよろしくな♪」
ムニュ・・・
ケンタくんはあたしのほっぺたを掴んでにんまり言った。
「よ・・よろふぃく・・・」
あたしはそのまま挨拶をする。
ブ・・ハハハハハハハハッ!!
「リサっち♪マジ可愛いかも!!小動物みたいな?いじめ甲斐があるって言うか♪」
「ドSの京真にはたまらんだろうな♪」
・・・あたし・・・遊ばれてる・・・?
「ってか、俺はヒロトね♪リサっち、ちっちぇ~なぁ♪」
そう言いながら、ヒロトくんがあたしをヒョイっと持ち上げて肩に担いだ。
「きゃぁ!!」
あたしの視線はいっきにヒロトくんの足元に向き、お尻がみんなの方に向く。
鼓を持つかのような形・・・
「お、おろしてぇ!!」
「暴れると、お尻ぺんぺんだよ?」
・・・やっぱり遊ばれてる・・・
京真ぁ・・・早くトイレから戻ってきてぇ!!
「おい、ヒロト・・どういうつもりだ?」
トイレから戻った京真がヒロトくんの真ん前に立つ。
「け、・・京真!!」
あたしは京真に向かって目で助けてと訴える。
「ちぇっ!せっかく遊んでたのに・・」
ヒロトくんはあたしをおろしながら、わざと膨れて見せた。
京真はドサっとソファー席に座る。
「あのなぁ、りさ、お前ももう少し抵抗しろよ・・」
「はい・・・」
「もうりさはココに来い」
京真はそう言うと、自分の膝の上を指差した。
・・・は?・・・
ぽかんとするあたし・・・
「早くしろ」・・急かす京真。
「えっと・・どゆこと・・ですか?」
京真は、はぁーーーーっと深いため息をついてあたしの腰を掴んだ。
「放し飼いにするとあぶねぇから、お前はココ」
あたしを膝の上に乗せて後ろからあたしのお腹に手を回す。
な、なんなの?!
山井くんも、ケンタくんもヒロトくんも、クククッと笑う。
「ちょ、ちょっと!!京真、普通に座りたい・・です」
「だーめ」
そう言いながらテーブルの上にあるメニューに目を通す。
・・・恥ずかしい・・・
こんな事・・・恥ずかしすぎる・・・
京真はこういうの慣れてるかもしれないけど・・・
あたしには刺激が強すぎる。
「おーーーい♪京真たち♪来たよ~」
今度は甘い声が聞こえてきた。
ケンタくんやヒロトくんは、「おぉ!!来たか♪」とちょっと嬉しそう。
あたしは京真の膝の上に乗ったままだったから、その声の先に顔を向ける事が出来なかったけど、
多分・・・京真の《歴代の女の子たち》と同じ系統の子たちだと思う。
つまりは・・あたしと正反対の子たち・・・
「あれぇ?!京真・・・誰それ??」
・・・その驚きようは、あきらかに・・・あたしの事だろうなぁ・・・。
「あぁ?誰でもいいじゃん?」
京真は面倒くさそうに答えた。
「・・・もしかして・・京真の新しい彼女とか?!」
あたしは、その言葉にピクっとした。
あたしなんかを《彼女》だなんて言ったら、京真が笑われちゃう・・・
でも・・・《彼女》って言葉を期待しちゃってたりするし・・・
京真・・・なんて言うの??
京真をチラっと見ると、京真は視線を落として小さくため息をついた。
やっぱり、京真が笑われるのは気の毒だし・・・否定しとかなくちゃ。
「あ・・・あの・・・あたしは・・・」
・・・京真の知り合いって言う?
・・・妹?・・・それとも親戚??
「俺の彼女だよ♪」
・・・へ?・・・あたしはずっと俯いていた顔を上げた。
京真もその声の先に顔を向ける。
・・・山井くん・・・?
「その子は俺の彼女。清楚な感じでいいだろ??」
「「きょ、恭介?!?!」」ケンタくんもヒロトくんも驚きを隠せない。
京真は・・・ポツリと・・・「意味わかんね・・」と言っただけだった。
「だ、よね!!・・んな訳ないかぁ!!京真はこういう子じゃなくて、今時ギャルが好きだしねぇ♪あたしみたいな??
ねぇ?京真♪ また前みたいにたまには相手してよ♪」
・・・やっぱり、京真の好きなタイプはあたしと正反対の子なんだ・・。
あたしみたいな地味な普通の子なんて・・・京真には似合わないよね。
京真も、何も言ってくれないし。
《俺と付き合ってくんない?》とかって、何かの罰ゲーム??
まだ京真の膝の上にいるのに、
・・・さっきまでのドキドキが全く感じられなくなってる。
胸の奥からこみ上げるキューーーーンってヤツが来ない。
・・・・とにかく今は・・・自分自身が恥ずかしい・・・
うわぁ・・・ヤバイなぁ。泣きそうになってきたよ。
視界の隅でさっきの女の子が京真になにか一生懸命喋ってる・・・
いつの間にか、さっきまであたしのお腹に回されてた京真の腕がほどかれてる。
あ・・・あたし・・・膝からおりなきゃ・・・
そう思った途端、ふわっと身体が浮いた。
「じゃぁ、リサ行こうか♪」
山井くんがあたしの手を握って京真の膝の上からおろす。
あたしは、目に溜まった涙を落とさないように、目を必死に開けてそれを髪の毛で隠れるようにした。
京真は・・・
ギロっと山井君を睨んだまま、さっきの女の子がくっついてくるのを表情を変えずに受け入れていた。
その様子を見て、山井くんはあたしの手を掴んだまま店を出た。
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店を出て、山井くんはパッと手を離した。
あたしは、その手を呆然と見つめる。
「・・・大丈夫? ちょっと歩こうか・・」
「・・・え?あ・・うん・・」
何が大丈夫なんだろ??あたし、涙堪えたはずだけど・・・
「・・リサっち、居辛そうだったし、超泣きそうだったから・・・
・・っつうか、京真も京真だよな・・はっきり、リサっちは彼女だって言えばいいのにさぁ・・・」
「あ・・・いいの。だって、やっぱりあたしみたいな子って普通すぎて・・面白くないだろうし。あの女の子だって言ってたじゃない?京真は派手な子が好きって・・」
「・・・リサっちはさ、なんで京真と付き合うことにしたの??」
「・・・わかんない。半分勝手にそうなったっていうか・・・」
ソレ、あたしも知りたいよ・・・
「まぁ、京真の今までの女はみんな、ド派手でギャルギャルしててさぁ。リサっちとは真逆な感じだったけど・・・。でも、リサっちに対する態度とか見てると結構マジっぽく見えたんだけどなぁ・・・」
「そんな風に感じたことないけど・・・?」
「そぉ??京真が俺らの前であんな風に膝に乗せたり~とかしたの始めて見たからさ。
今までの女は、勝手に京真にまとわり付く、しがみつく~みたいな?京真はされるがままって感じだったし。」
「そうなんだ・・? でも・・あたし好きとか言われた事ないもん・・」
山井くんはギョっとした顔であたしを見た。
「・・・リサっちてさ、そういうの天然??それとも計算??」
「へ??なんのこと??」
すると、山井くんはハァ~~っとため息をついた。