「ごめんなさいね、貴方たち。迷惑かけちゃって。
気にしないでね」
介護士の一人が私達に言った。
優也は放心状態で、心ここにあらずな感じだった。
お母さんを引っ張りながら、連れていく介護士に私は慌てて尋ねた。
「あのっ!!
この方って………」
介護士は少し迷った後、話しだした。
「あの人、佐恵子さんって言うんだけど。
若年性アルツハイマーなのよ。
まだ40歳なのにねぇ。
若い時に、色々あったらしくてご主人が首吊り自殺をしたの。
佐恵子さんは、それまでも色々とストレスが溜まってたみたいでねぇ………
こんな風になっちゃって。毎晩隙を見ては、施設をみて徘徊するのよ。
きっと、ご主人を探してるんでしょうけど。
可哀想だけど……困ったものよねぇ」
介護士は、まるで話好きな近所の人と噂話をするように眉を曲げて、こんな重い話を軽々しく言った。