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そして、碧の誕生日。
あたしは、朝早くに駅に向かう。
どうやら、今日行くところは電車を使うらしい。
こんな早くに待ち合わせだなんて、遠いのかな?
駅に着くとすでに碧が待っていた。
「おっせーーー!!琴女!!」
「えぇ?!まだ、約束の時間まで30分はあるんですけど・・?」
「俺に早く逢いたくないのか?!俺は早く逢いたくて、1時間前に来てたし♪」
「フフフ・・・碧らしい♪」
電車に乗って約1時間半・・・
着いた先は海だった。
「わぁ!!海だぁぁぁ♪」
「よし!琴女、行くぞ!!」
碧はあたしの手をギュっと掴んで歩き出す。
あたしは、その繋がれた手を見て、碧の横顔を見て、
身体中がくすぐったくなるのを感じた。
・・・好きって気持ちが身体中から溢れちゃう・・・
・・・碧・・・一生離さないでね??
・・・ずっと一緒にいようね??
あたしは、碧と繋いだ手をギュっと握った。
暫く歩くと、目の前に砂浜が広がる。
水面がキラキラと光り、遠くの水平線がわずかに曲線を描いているように見える。
「こっち×2!!」
碧が指差した方には古い灯台があった。
「灯台??・・展望台??
でも、あれ入れないみたいだよ?」
灯台のまわりには柵がされていて中に入れそうはない。
「いいからいいから♪」
それでも、碧は強引にあたしの手を引いていく。
灯台に近づいて、あたしは息をのんだ。
柵にビッシリ繋がれた、ありえない数の南京錠。
よく見ると、南京錠には女の子の名前と男の子の名前が書いてある。
あ・・テレビで見たことがある・・・
「・・これって・・・」
「ここにカップルで南京錠をくっつけて、
その鍵を海に投げると、そのカップルは一生離れない・・ってやつ♪」
「・・・すご・・・い」
あたしはあまりにもロマンチックな話に感動して涙が溢れた。
「うわぁぁ!!泣くなって!!」
「だってぇ・・・なんか感動しちゃって・・・」
碧はあたしの頭をぽんぽんとしながら言った。
「・・・琴女、ほら♪」
ほらっと出した手のひらには、太陽の陽射しでキラキラ輝く南京錠があった。
「これ、昨日南京錠に一生懸命デコってきたんだぞ??」
「・・・碧・・・うぅぅ・・・」
あたしは涙が止まらない。
「おいで♪一緒につけようぜ♪」
碧はニカっと笑って、手を差し出した。
あたしたちは南京錠を柵の一番上に取り付けた。
碧のデコのおかげで、一番目立っている。
あたしたちはそれを眺めてから、鍵を海に投げた。
「今日は碧の誕生日なのに・・・あたしが喜んじゃってるし・・・」
「いいのいいの♪俺は、琴女が喜んでくれるのが一番嬉しいんだから♪」
「うぅぅ・・・碧・・・」
「おぃぃぃ!!泣きすぎなんですけど?」
「・・・碧・・・ずっと一緒にいようね??」
「あったりまえだ!!ずっと一緒にいようぜ♪」
碧はまぶしいくらいの笑顔で言った。
「あ・・・碧。
遅くなったけど・・・誕生日おめでとう!!」
「アリガト♪」
「今日は碧の願い何でも叶えてあげるからね!!
何か食べたいものとかあったら言って!!」
「なんでも・・・って言った?」
・・・碧の顔が悪戯っ子の顔になる・・・
・・・ヤバイ・・・・
「じゃぁ・・・」
碧はそう言うとあたしを引き寄せて抱きしめて、
あたしの耳元でボソっとささやいた。
「今日、最低3回はエッチしたいんだけど?」
あたしは一気に顔の温度が上昇した。
「俺、誕生日だから御奉仕よろしくな♪」
「もぉぉ!!!!碧のバカ!!!!」
おわり
※海にモノは捨てていけません。
12月24日は、あたしの彼氏、直江理の誕生日。
どうやって彼を喜ばせよう?
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高2になってすぐに、あたしは同じクラスのオサムと付き合いだした。
オサムの口癖は、
「うっせぇし」
「めんどくせ・・」
だから、付き合いだしてからまともなデートなんてしたことがない。
いつもオサムの家か、漫喫・・・
誕生日・・なんて聞いたら嫌がるかもなぁ・・・
「ねぇ・・オサム・・」
「んあ?」
オサムはベッドをおりて、さっき脱ぎ捨てたばかりのパーカーを着る。
あたしは、ベッドの中で毛布を口元まで被って聞いた。
「オサムって、誕生日いつ??」
「・・・なんで?」
「なんでって・・・
やっぱり彼氏の誕生日は二人でお祝いしたいなぁ・・なんて」
「・・・そういうのめんどくせ・・」
出た×2、《めんどくせ・・》
「・・・・・・」
「誕生日なんて祝って何が楽しいかわかんねぇし。」
「・・・生まれた日だから・・・」
「あぁ・・俺そういうの無理だから。」
なに・・その言い方・・・
ちょっと・・ムカツク・・・
「あ。ちなみにクリスマスとかも無理だから。覚えといて。」
・・・あったまきた!!!!!
「もういいっっ!!」
あたしは、ガバっと起き上がった。
「オサム、意味わかんない!!
あたしたち付き合ってるんでしょ?だったら、誕生日くらい!!
あたしはいっつもいっつもオサムの我が儘聞いてるのに!!
たまにはあたしの我が儘聞いてくれてもいいじゃない!!!」
あぁ・・・あたしオサムにこんなに意見言うのはじめてかも・・
「・・・てか、服着たら?丸見えだけど?
それとも、誘ってんの?」
あ・・・しまった・・・。
自分が全裸である事を忘れるくらいの怒りモード。
なんか悔しいから、あたしはパパっと服を着て、
そのままバッグを持ってオサムの部屋を出ようとした。
「・・・そういうのもめんどくせ・・」
オサムがぼそっと発した言葉にあたしは怒りが爆発した。
「オサムってさ、あたしと付き合ってるのもめんどくさいんじゃないの?
なんか、そういうのすごいムカツクんだけど?
毎日毎日、オサムの家か、漫喫ばっかだし!!
エッチばっかだし!!
メールすんのもあたしからばっかだし!!
好きとか言うのもあたしからばっかだし!!」
あたしは叫びながら号泣した。
叫ぶだけ叫んで・・・・
お互い沈黙・・・
あたしは、部屋を出て行くタイミングを逃した。
《悪かった・・》とかそういうのを期待してたんだけど・・
「・・で?言いたい事はそれだけ?」
そんな期待はあっけなく覆された。
「・・・あの時、圭太とヨリ戻したままにしておけばよかったよ・・」
あたしはそう言って部屋を出た。
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あたしは、オサムの家を出てから駅までをゆっくり歩いた。
自分が言ってしまった事を激しく後悔。
でも。
もしかしたら追いかけて来てくれるかも・・・
・・なんて、まだ期待しちゃって・・
携帯をチラっと見る。
メールも着信もない。
あぁーあ。
やっぱり、オサムはあたしとの付き合いがめんどくさかったんだ。
バッカみたい・・・
あんな事言わなきゃよかった・・・
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その日からあたしとオサムは一切口を利くことはなかった。
こういう時、同じクラスって気まずいんだよね。
「琴女ちゃん?オサムとケンカしたの?」
上杉くんが心配そうに聞いてくる。
「・・ちょっとね・・・」
「マジ?!別れちゃう感じ?!
別れたら、俺のところにおいで♪大事にするから♪」
上杉くんは急ににっこりしだす。
・・心配してくれてるんじゃなかったんだ。
「・・で。何が原因??話してごらん?」
上杉くんに話していいのか??・・と思ったけど、
今はただただ人に話を聞いてもらいたいばっかりだったから
あたしは全てを上杉くんに話した。
「プププっっ!!なーるほどね♪」
上杉くんは笑いだす。
「何がおかしいの?!真剣に悩んでるのに!!」
「ごめんごめん。
あぁ・・・そっかぁ・・。オサムもガキだなぁって思ってさ」
「へ??」
上杉くんはコッソリあたしに教えてくれた。
「実はね・・・
オサムの誕生日12月24日なんだけど・・・
昔から、誕生日とクリスマスが一緒で、プレゼントもケーキもまとめて一括だったんだって♪
だから、誕生日やクリスマスにやたら拒否反応起こすみたい。」
「はぁ??そんな理由なの?」
「そうみたいだよ♪
それにオサムは琴女ちゃんにカナリ惚れ込んでるから心配しないで♪」
上杉くんはパチっとウィンクをする。
「そんなのわかんないよ・・・伝わらないもん。」
「じゃぁ、見せてあげようか?」
上杉くんはそう言うと、あたしをギュっと抱きしめた。
「ちょ、ちょっと?!」
「静かに・・いいからそのままで聞いて。」
上杉くんはあたしの耳元で囁く。
「俺が今からする事をただ受け止めてくれてたらいいから。
そのままでいてね?」
「う、うん」
あたしが返事をしたのと同時に上杉くんがあたしの頬にキスをした。
「キャっっ」
「黙って・・・オサム見てごらん?」
あたしは言われるままオサムを見た。
さっきまで、机に突っ伏していたオサムが立ち上がってあたしたちを見ている。
・・オサム??
「超ヤキモチ妬きなんだよね・・オサムは。」
・・え??
すると、目の前にオサムが現れた。
「遼・・どういうつもりだ?」
「どういうって?オサム、琴女ちゃんと別れたんじゃないの?」
上杉くんは挑発するように言う。
「うっせーよ。来い、琴女」
オサムはいきなりあたしの腕を掴み、教室からでる。
無言のまま・・・
でも、つかまれている箇所は温かい。