ドン、ドン、


何かがドアを叩く。


一瞬びくりと体が跳ねた。
と、同時に全身の筋肉が緊張した。


僕は刃物を強く握り締める。



「奥さん、どうしたの。奥さん」



何かが喋った。

咄嗟に僕の自衛心が働いたのだろう、僕は、訳のわからないことを叫びながら、瞬時に真新しいドアを開け、その真ん前に立つ何かを包丁で突き刺していた。



無我夢中とはこのことだ。
僕は赤くなった刃物を誰かの腹部から抜き取り、ぴかぴかの家を飛び出した。
後方で悲鳴が聞こえた。
僕を追う足音もする。
助けてくれ。
助けてくれ。


無心で足を動かし、その場を後にした。
ただただ逃げることだけを考えた。