僕は怯えていた。
ただひたすらに恐怖だけを感じていた。
だからこそ、汗びっしょりになっているこの右手に、こんな危険な物を握っている。
普段ならば、この危険な銀の刃は、台所に行儀よく仕舞われている筈だ。
そして、がたがたと震えながら、ぴかぴかの僕の住まいと外界を繋ぐ場所――つまりは、玄関のドア――をじっと睨みつけている。
額を流れる汗がキモチワルイ。
喉が渇いて仕方が無い。
この目の前にある真新しいドアから何かがやって来るのだろうか、それとももう行ってしまったのだろうか。
そんなことはどうでもいい。
僕はただ、何かを恐れているだけなのだから。