香は、連の家とは、逆の方向を指差した。
「そっちから言ってきたんだよな。女神ってことを。」
連は、まだ校舎を見ている。日が沈みかかり、空が朱く染まっている。
「そろそろ、戻るか…。」
連は歩きはじめた。香は立ち止まったまま、こう告げた。
「今度は、クリスマス・イヴで大きな木の下でね。」
香の存在が消えた気がした。振り返るとそこには、誰もいなかった。
「大きな木の下か…。」
連は、再び歩みをはじめた。街灯がちらほら点灯し始めた。自分の家の前に来た時、
ふいに空を見上げた。視界に入ったのは、一番星だった。それをしばらく見た後、扉
を開け、靴を脱ぎ、揃えてからリビングに向かった。壁のスイッチを押し部屋に明か
りを灯した。昼間の光景と然程変わりはなかった。変わったといえば、部屋が寒く
なったぐらいだろう。連は、寒さは平気なのだが、ストーブのスイッチを押した。そ
れから、キッチンへ向かい、夕食の用意をする。しばらくすると、母が帰ってきた。
「ただいま~。」
「お帰り。」
この会話がはじまった時には、夕食は出来ていた。そして、二人は、向かい合って、
椅子に座った。
「うん。相変わらず連の作る料理は美味しいね。」