「そうだ…これ…。」
香は首にかけていた雪のように白いヘッドホンを連に差し出した。連はそれを素直に
受け取った。
「そのヘッドホンはね、私の好きな歌が入ってるの。」
そのヘッドホンには、コードがなかった。
「ありがと…。」
連は静かに言った。そして連は、目に焼き付ける。香と一緒にいるこの景色を。香が
淡い光に包まれた。笑顔を見せる香。光の粒子になり、雪のように舞い、散っていっ
た。連は一人雪のない道を歩いた。
 翌日の早朝…。連は、いつもの場所を通り過ぎ、大きな木の下に向かった。大きな
木の下に着くと、徐にパーカーの左ポケットからウォークマンを取り出し、電源を入
れ、右の耳だけイヤホンを付けた。左のイヤホンは、香がいつ来てもいいように、付
けない。そして、歌を聴き終え、ウォークマンの電源を切り、家に向かい歩き出し
た。連は昨日の白いヘッドホンの事を思い出した。帰ったら聴いてみよう。そんな事
を心の中で呟いた。不意に空を見上げる。すると雪が降りだした。その中の一つが連
の頬にあたって涙のように淋しく融けた。そして歩く。
 君の居ない道を…。