連は歩き出した。連の家から十分程で大きな木の下に行ける。色々な人と擦れ違
う。最近は女神の事しか考えていなかったので普通の人間の存在が新鮮だった。そん
な事を考えながら、雪篠駅に着いた。この駅の広場には、クリスマスツリーをイメー
ジした、大きな木がある。連はその下まで歩いていった。そして、立ち止まり、
ウォークマンをパーカーの左ポケットから取り出し電源を入れ、イヤホンを右、左の
順につける。左のイヤホンをつけようとした時、連の手からそれは離れた。左のイヤ
ホンは香の顔で見えなくなった。香は、イヤホンを左耳につけ、連と同じ歌を聴いて
いる。二人は、しばらく動かないでいた。
「良い曲だね。」
香はそう言ってイヤホンを耳から外し連に返す。連はそれを受け取り、ウォークマン
の電源を切り、ポケットにしまった。
「ねぇ、今度やってみようよ。」
「何を?」
突然、何を言い出すのかと思った連。
「空から降る雪の軌跡を幸(ゆき)に変えていこう」