『こんにちわ』

にこりと笑って、目線を下げる。

昼下がりのカフェのテラス。

テーブルに影を作るだけのパラソルの下で、本を読むその人を見つけて、私は思わず声をかけた。

その本人は。
怪訝な表情を浮かべ、読みかけた本に白い栞を挟み、静かに本を閉じた。

…そんなにあからさまに怪訝な顔をしなくてもいいのにと、一瞬思ったけれど、

『どちらさまでした?』

冷ややかに言って、テーブルに置かれていたアイスコーヒーを一口すすった。

あ…。
なるほど。
覚えていないだけなのか…。
と、一瞬思ったけれど、負けじと、
『先日、お会いしたのですが、覚えていらっしゃらなかったのですね』
とにこりと笑った。


……。


気まずい沈黙。
それ以上に何を話せばいいのか分からずに、声をかけて3秒で後悔をすることになるとわ…。


『あ…』
『…良かったら座れば?』

沈黙に耐えられず、その場を去ろうと声を出そうとした私と。
同じく、沈黙に耐えられずか、周りの視線を気にしてか、空いた席に誘導する彼。

瀧史(そうし)。



数日前に、居酒屋で出会った瀧史の雰囲気とはかなりかけ離れていた。