質の良さそうな、というか確実に良いだろう青磁色のワンピースを上品に着こなした祖母と、艶やかな黒髪を緩く結いあげた菜穂さんが、私に微笑みかける。


この祖母は、父の亡くなった直後、その葬儀の際に私にこの家の養子にならないかと申し出た人物だ。

もちろんそれは断った。

そのときの私にとってそれが魅力的な選択肢であるとも思えなかったし、それを選ばなかった今でも間違っているとは思っていない。



ただ、思うのは。

もしも私がまた“長谷川”亜美に戻っていたら。

私はいつかの、あの頃の自分を取り戻して、また同じように笑えていたのだろうかと。

そんなはずもないのに、それだけだった。




失ったものは取り戻せないことも、捨てたものを拾いに行く勇気が自分にないことも。

いくら振り返っても変えることはできないことも。


わかっているのに、ただひたすらそれだけを思っていた。