「もう兄さんのところを出たようだね」


まるで父を生きているように扱う叔父にさえ、嫌悪に似た感情が生まれてしまう。

なにも悪くない、責任のない人のことをそう思ってしまった自分がとてつもなく嫌な人間に思えて、胸の奥が重く軋んだ。

私は返事ができなかった。



「松野に今いるだいたいの場所は聞いたけど、そこからならあと30分もかからずにうちへ来られるね」


やっぱり行けない――その言葉は、今にも出てきそうで、けれど喉に引っかかってしまって言えなかった。

肯定を示す相槌を、小さな声で呟くことしかできなかった。


「菜穂も母さんも、もちろんわたしも、きみが来てくれるのを待っているから。
きみを待っているから、それを忘れないように」



私の心の中の迷いがまるで見えているかのように、叔父は私を待っていると繰り返して言った。