その時、電話の音が鳴り響いた。

私の携帯ではなく、車に設置されている車内電話だ。


その存在に気づいて改めて、この車に自分が乗っていることがなにかの間違いであるかのような気がしてくる。

本来ならば、私のような人間は一生乗れない車と待遇。

場違いにもほどがある。

皇ヶ丘学園に通っていたという時点で質素ではなかったけれど、それでも一般的な金銭感覚の中で私は生きていたのに。



私が自嘲気味に笑っていると、運転手の松野さんが受話器を取った。

そしていくつか言葉を交わすと、受話器を置いてこちらを振り返った。


「旦那様からお電話です。そちらをお使いください」


指された先を見ると、私が座っている後部座席の近くにも、同じような受話器が設置してあった。

ゆっくりとそれに手を伸ばし、小さく震えながらもそれを耳に当てる。


ひとつゆっくりと息を吐くと、なめらかで優しい声が耳に届いた。