済州(チェジュ)市内から出航する渡し船は殆どがフェリーで、フェリーターミナル以外からの出航は、 西帰浦市(ソグィポシ)の東の外れに在る城山邑(ソンサンウプ)は城山里(ソンサンリ)の港だけである。



そこから、全羅道(チョンラド)にあるノリョクド港へ向けて定期便が出ているのだ。



場所から考えても、ここから本土に向かうほうが安全であろう。



済州市内のフェリーターミナルから空港ターミナルまで、すごい数の警察が出ていたので、俺は迷わず城山里(ソンサンリ)港へ向けて車を走らせた。



夜7時半過ぎに到着した。



さすがに夏で日が長くなったとは言え、空は薄暗くなり外灯も点き始めていたが、ソンサンリ港は人気もなく受付の明り窓以外殆どが闇に包まれようとしていた。



今夜の最終便は、後1時間後に出航するそうだ。



封印の指環を外し、ポケットに仕舞う。



乗船口にいるスタッフに気付かれ無いように、彼等の頭の中に直接《俺の姿は見えない》と命令しながら、目の前を通り過ぎていく。



彼らは何もないように雑談を続けていた。



潜り込んだ船内には、数十名のお客が寝転がったり弁当を食べたりテレビを観たりしている。



一人一人の過去のビジョンを見ていく。


が、それらしき人物は見あたらなかった。



やはり、今日盗んで直ぐに本土へ移動するより、済州島内に隠れていた方が安全だと取って、犯人も動かないのだろうか?



船底の方は、船内にいるお客達の車が有るだけだが、もしや車の中に隠れているのだろうかと、車を順番に覗いて行った。



監視カメラに映っていた車は無かった。



それでも、一応1台ずつ車に触れていき、物体の中に残っている記憶を読み取っていった。



サイコメトリーの力である。



このサイコメトリーの力でも、俺達のゴルフバッグに繋がる情報は読み取れなかった。



仕方なく下船して、自分の車に戻ろうとしたとき、出航ギリギリで1台の車が遣ってきた。



その車を見た時、直ぐにゴルフ場の監視カメラに映っていた車だと分かった。



俺は、乗船チケットを購入しようと車から降りてきた男の頭の中に



《その場で大人しくしていろ!》



と直接命じてから、俺は車から降りてその男に近付いて行った。



次に、頭の中に直接、



《今からする質問に素直に答えろ!》



と命じてから、



「やぁ、俺が誰だか分かりますよね?」



『はい。』



思った以上に素直に答える。



「俺達のゴルフバッグを盗んだのはあなたですよね?

また、何故そんな事をしたんですか?」



『はい、盗みました。

ネットオークションに流せば、良い小遣い稼ぎが出来るので遣りました。』



「場当たり的に遣ったのですか?

それとも、計画してたんですか?」



『うちの女房が、あそこでキャディーを遣っていて、予約表に役者のウシク氏と歌手のU-jin氏の名前が有ったので、計画して遣りました。』



「と言うことは、今回が初めてでは無いですね!?」



『いやぁ、初めてなんです。

つい魔がさしてしまいました。』



「返してくれますよね。」



『はい。

後ろの座席に全部有りますので、お返しします。』



「それでは、車から降ろしてこっちの車に積み込んで下さい。」



と言うと、分かりましたと言いながら車の方へ向かって行った。



と、その瞬間、男は車に乗って来た道を引き返そうと、車をUターンさせ始めた。



俺は仕方なく、俺の特殊能力をフルパワーで開放して車を急停車させた。



シートベルトをしていなかった男は、突然の急停車に抗うことも出来ずに、フロントガラスを突き破って路上に放り出され気絶した。



命に別状は無いみたいだが、一応警察と救急車の両方に連絡した。



15分後、警察と救急車の両方が遣ってきた。