『船内は空っぽで、二人を探したんですが、ヘリからでは発見出来ず、潜水隊が海中に潜って捜索しようとヘリから漁船に乗り移った潜水隊員が、後方のプロペラに何かが絡まっているのを発見しまして、漸く二人の遺体を回収したそうです。』



「プロペラに巻き込まれていたのか!?」



『イイエ、そうではなく、妻をシッカリ抱き抱えたご主人の張 春洋(チャン・チュニャン)氏が、プロペラにしがみついていたのですが、奥さんの文 海明(ムン・ヘミョン)氏は、折れた肋骨が肺に刺さって絶命しておりました。

また、夫の張 春洋(チャン・チュニャン)氏は頭部が陥没しており、これは想像ですが海に落ちた時に奥さんが船縁か何処かで胸を強打して肋骨が折れ、それが肺に刺さり海中へと沈んで行ったのを、夫が救出するために海に飛び込み奥さんと共に海面に出てきた所を漂っていた漁船の船底が頭部に直撃した。

意識を失いかけながらも、夫は船のスクリューにしがみついたが、そこで息絶えた!

そういう見解です。』



「何だか悲しい出来事だなぁ。

奥さんの弟さんは!?」



『文 敏秀(ムン・ミンス)氏は、海上保安警備隊の船で一緒に向かったそうです。

もうじき漁船共々、こちらに帰港して来る頃です。』



「そうか。

文 萬秀(ムン・マンス)御夫妻と、張 春洋(チャン・チュニャン)氏の御遺族は?」



『文 萬秀(ムン・マンス)氏御夫妻は今、ソウルからこちらに向かっているそうです。

張 春洋(チャン・チュニャン)氏は、身内がおりません。

両親は、彼が18才の時にこの世を去っております。

兄弟や親戚も居ないか、不明らしいそうです。』



「分かった。

それでは、全員港にて待機せよ。

漁船が戻り次第済州警察と協力して事を運ぶように!

また、御遺族に対して失礼の無い様に!」



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だいたいこれが、アボジ(親父)から聴いている海珠(ヘジュ)ちゃんのご両親の悲しい出来事だ。



アボジ(親父)は、葬式に参列した時に海珠(ヘジュ)ちゃんのご両親の御遺体から事故の瞬間の一部始終をビジョンで見てしまったそうだ。



見えてくる海上での一部始終が、まるで地獄の様で息が詰まって目眩で倒れそうになる程だったと言っていた。



それが未来の出来事なら、助けられたのだが、過去のビジョンではどうしょうも出来ないのだから。



葬儀の後、海珠(ヘジュ)ちゃんはお母さんの弟の文 敏秀(ムン・ミンス)夫妻が引き取り養子縁組を行い、海珠(ヘジュ)ちゃんは張 海珠(チャン・ヘジュ)から文 海珠(ムン・ヘジュ)に苗字の変更が行われた。



それから19年、高校を卒業した海珠(ヘジュ)ちゃんは、済州島(チェジュド)で大粒のみかんを作る研究をしながら、お祖父さんのマンスさんと一緒に暮らしているそうだ。



マンスオジサンは、別荘と同じ敷地内に3LDKの韓屋(ハノク=韓国伝統の古民家)で生活している。


海珠(ヘジュ)ちゃんの育ての親、実の母親の弟夫妻は、釜山(プサン)市内で中学の教師をしているのだ。



元々、済州島で教師をしていたが、姉貴夫婦の事故が切っ掛けとなり島を離れたのである。



そんなことを、あれこれ考えていたらソナがバスルームから出てきた。



『オッパ、お先でした。

オッパもシャワーどうぞ!

気持ち良いわよ!』



「あぁ、そうする。

髪の毛はちゃんと乾かしとけよ。

夏風邪ひいたら大変だからな。」



『は~い♪』



シャワーを浴びて部屋に戻ると、部屋の灯りは小さな間接照明だけになっており、ソナはベットの中で昼間撮って貰った結婚式の画像をデジカメを操作して、一人ニタニタしながら見ていた。