「どうかなさいましたか、バルバラ様」
近くにいた兵隊がバルバラに駆け寄ってそう言った。
「何でもないわ」
バルバラは眉間に皺をよせて、頭をかかえた。彼女の周りには衛兵と、マーレがいた。
マーレは手首を後ろで縛られ、石の床の上に放り投げられていた。
黒いドレスに身を包んだバルバラはマーレを振り返ると、いやらしく笑った。
マーレは、気丈な表情でバルバラを見据えていた。
「フン。嫌いだわ、その顔。自分の信念が一番って、そんな顔をするのね。ぶち壊してやりたくなるのよ」
バルバラはそう言うと、近くにあった真っ赤なカドレの花を手でひねり潰した。
カドレがジュッと音をたて、煙をあげ始めた。
「ウゥッ!!」
バルバラがとっさにカドレから手を離すと、カドレは溶けて純血のように石の床を這うようにして広がった。