「母さんー飯よそってー」

「はいよ、大盛り?」

「いや、ちょっとでいい」



モグモグモグ……。


オレ、原中大希実はまだ上京していないんです!!

ここは福井県。ここははっきり言って田舎だ。

オレの小さい頃からの夢は東京に行くことだった。

オレは19年間福井を出ていないのだ。

旅行にすら行ったことないのだ。

修学旅行は?合宿は?遠足は?って思うだろうけど、行かなかったのだ。

嘘みたいな話だがこういう学校行事のときに……、風邪を引き欠席した。





オレは運が悪いのか。


あと、オレの父さんが小さい頃に病気で死んだって言うこともあって家は貧乏だったからってのもある。

それはともかく、オレは上京したい。


「母さん」


オレは箸を机の上に置いた。

「あらどうしたの」

母さんはいきなりオレに話しかけられてびっくりしている。



「オレ、上京したいんだ」

「お兄ちゃん何言ってんの!?」

バン!!と机を叩き立ち上がったのは意外にも母さんではなく、もうすぐ高校生になる妹の鞠花-マリカ-だった。








「お兄ちゃんフリーターじゃない!!」



そう、オレはフリーターなのだ。

今まで大学には行かず、福井で就活していた。

「いや、母さんからの仕送りを頼りに就活は向こうでやりたいなーって」

母さん、さっきから無言なんですけど。

やっぱりムリか?

オレが諦めかけた頃、ついに母さんが口を開いた。


「いいわよ」

「「ええ!?」」

「その代わり、条件があるわ」

「条件って?」

「東京に晴彦君いるでしょ?ほらあの子社会人だし洋服ブランド会社の社員でしょ?あの子と同居するって言うのならいいわよ」






「なんで晴彦と……?」



晴彦とは、

オレより5つ年上の幼なじみですでに上京デビューした幼なじみだ。

彼の職業は決してオレのようなフリーターではなく、れっきとした洋服ブランド会社の社員だ。

彼は4年前に上京デビューしたのでここ4年くらい彼に会ってない。


「本人の許可無しでか!?」

「そんなことお母さんでもしないわよ」

お母さんでもしないわよって……。

「許可ならちゃーんと取ってるわよ!この前多賀谷さんとこに遊びに行ってたら晴彦君帰って来てたのよ~」







「それで聞いたってか……!」

なんて図々しい母親だ。

それでOKする方もする方だよ。

「わかった。晴彦といたら頼もしいからな」

「んじゃ近いうちに晴彦君と連絡とるのよ」

「わかった。ありがとう母さん」

オレは食器を片付け部屋を出た。



オレと晴彦は家が隣同士で親が仲良かった為、オレもよく晴彦に遊んでもらっていた。

しかし、オレが晴彦を妙に意識し出したのは中1の頃だっただろうか。






オレだって昔は女が好きだったしテレビに出てるゲイを見ては「男同士で何やってんだよ気持ち悪りぃ」って思っていた。


だけどそんな考えをひっくり返すような出来事があった。




~今をさかのぼること6年前~


「晴彦!宿題教えて!」

オレは晴彦に宿題を教えてもらいに来ていた。

「またかよ大希。たまには自分でやらないと」

「どうしてもわかんないんだよ!教えてください!!」

この時晴彦は大学生。

しかも東大だからかなりのエリート。

「ったくしょうがねぇなぁ……どこ教えて欲しいんだ?」

そう言ってオレの腰を触りながら家の中へ入れる晴彦。

彼のスキンシップだと思っていた。