「いや、あそこに吉沢はいなかった。俺が見たのは… 」
龍雄は真輔の問い掛けに、
想定外の言葉を返してきた。
ぼんやりした顔つきだが…
はっきりとそう言って真輔を見ている。
吉沢はいなかった。
どういう意味だ。
手帳は確かに吉沢百合子のだ。
「龍雄、はっきり言えよ。
手帳が落ちていたのだから吉沢がいたのは確かだ。
それにあいつは昨日家に帰らなかった。
今から捜しに行く、どこか心当たりはないか。」
やはり意識が戻っても…
まだどこかで記憶がずれているのだ、と感じている真輔は、
あくまでも百合子がキーパースンだ、と思い、
とにかく百合子の行きそうな所だけ聞こうと思った。
「お前の幼なじみに聞いてみろ。」
また、いきなり龍雄は真輔の意識に無いことを言っている。
「幼なじみ… 誰のことだ。」
「真輔、川崎茜だろ。」
気の回らない真輔に代わって、
黙って話を聞いていた信一が口を出している。