「おい、待てよ。何の真似だ。」
「離してよ。気が変わったの、帰るわ。」
「ふざけるな。」
「あっ・・」
男はラブホテルの建物から出て来て、
そこにいた女の髪を掴み、
平手で撲った。
女はその拍子に壁にぶち当たり、
そのまま倒れている。
男は30代半ば、
きちんとスーツを着たサラリーマン風。
倒れた女は中肉中背だが、
よく見ればまだ幼さが残っている顔に化粧をして、
大きなピアス、
太いブレスレットが目立っている。
短いワンピースの下からスパッツをはき、
若々しい体の線が強調されている。
月曜日の昼下がり、
神戸・新開地の歓楽街に人通りは少ない。
ましてやホテルの玄関先でのトラブルなど誰も気にしていないようだ。
男は女を引きずるようにして中へ連れて行こうとしている。
「いや、離して。」
女は抵抗しながら、
恐怖を感じたような泣き声になっている。
「おい、あれは吉沢の妹だぞ。」
通りかかったふたりの若い男、
高校生の小田切真輔と宮村龍雄だ。
二人は同じ高校の二年生。
もっとも、龍雄はもともと暴れ者として名を馳せて、
高校に入ってから数回補導され、
二年生を留年している高校生。
今でも学校では、
不良のレッテルを貼られ敬遠されている。