「琴梨に・・・謝ろうかと思って・・・さ。」
「私に?」
優子はうつむきながらゆっくりと言った。
ロビーは私達だけで
張りつめた空気が余計にきつくなる。
「全部・・・聞いたんだ。・・・ごめんなさい!!」
そう言って思いっきり頭を下げて
「ひっく・・・っ」
泣いていた。
「優子・・・優子、顔あげて。話したい事があるから」
逃げてばかりじゃいけない・・・・
それを改めて知った。
「あの日から、私は変わっていったの。そして、いろいろな事を考え始めた。友達、家族、周りのみんな....それでね、気付いた事もあった。」
「気付いた事・・・・?」
優子は顔を上げて泣きながら聞いてきた。
「そう、私は周りに迷惑ばっかかけてきたんだなぁ~って自分ひとりじゃ何もできなくて・・・すぐ逃げちゃうんだな~って」
あの日から
絶望と
自分の弱さ
孤独を
味わったの。
そして
自分の無力さを思い知った。
「でもね、優子。優子のお陰でかけがえのない人に出会えて、優子に感謝した事もあった。」
怖くて・・・辛くて・・・絶望を味わったときに
谷野 芽依という、大事な大事な人に出会えた。
「その人は、初対面の私を妹みたいに接してくれて・・・人生、まだ終わってないのかなぁ~って思えた。」
芽依さんと出会った、あの日。
芽依さんのお陰で今は、夢森学園の生徒としてここにいる。
私の力じゃどうしようもなかったのに
「ねぇ、優子。あの後....どうなったの?」
「・・・・あの後は.......」
この質問は、聞くのには
とっても辛いけど
今、聞かなきゃ・・・もう一生聞けない気がする。
そこから、優子は涙を流しながらあの後を教えてくれた。
「・・・・・ごめんなさい、琴梨!!」
全部を話し終えた優子は
最後に、もう一度
深々と頭を下げ
私に謝った。
優子は言ってた....
あの日から、大切なモノを失ったと...
それは、いつも近くにあるようで
ホントは近くには無く、手の届か無かったモノだと......
「優子・・・残念だけど、私は優子を許す事は絶対にできない。いくら謝られてもね。その代わりって言っちゃなんだけど、『あの日』を忘れる事は出来る。もう、無かった事にしよう。」
「無かった事なんて・・・あたしは....」
「うん。でもね、お互いに変わらなきゃ・・・ね?もう行っていいから。優子も変わってね!私も大切な人を見つけて変われる事が出来たから・・・優子も見つけなよ」
「琴梨・・・・ごめんなさ・・・っ・・ありがとう、琴梨!」
そう言って優子は走って行った。
「甘いな~~琴梨は!」
「ま、それが琴梨のいいとこでもあるんだと思うけど?」
「っうわあっ!!」
優子の背中を眺めていると、いきなり後ろから朱雀と明音が立って話していた。
「・・・全部、聞いてたわけ??」
「まぁ~ね一通りはね!」
うっそ~~
恥ずかしいって・・・・
でも
「これが私だから!」
「何よ、いきなり・・・」
誰が何と言おうと私は私だから。
「ははっさすが琴梨!」
「でしょ~~??」
こうやって、大切な人と笑いながら話せる。
とっても素敵だと思う。
当たり前のようで
私にとって当たり前じゃなかったから......
私は朱雀の
『笑顔』で
何でも出来そうな気がするよ?
空でも飛べちゃうかもね!
大切な人のいろいろな顔をもっと、見てみたいって思うようになった私は。
恋する乙女
だよね?
「ねぇ、朱雀・・・ぎゅ~ってして」
「・・・はぁっ!?」
「ちょっと・・・・昼間っから何やって・・・」
大切な人が傍にいる。
私を『好き』って言ってくれる人が傍にいる。
もう、何も怖くないよ?
今が・・・・こんなに幸せだから。
信頼できる人がこんなにも近くにいてくれるって
こんなにも、胸があったかくなる。
初めての感覚で味わったことのない感情で・・・・
絶望を味わった私は、もう逃げないから。
これ以上の苦しみはもう・・・無いと思うから。
私は、頑張ったよね?
最後まで・・・頑張ったよね。
「め・・芽依さん!?」
「あらあら~~青春中だった??お邪魔するよーー」
「うわっ生徒会長まで!?」
「芽依さん・・・何かニヤけてる・・・」
ねぇ、神様
人間、辛い事を経験した後には
絶望を味わった後には
とびっきりのプレゼントをくれるんだね。
たとえ小さな喜びでも今の私は何にも代えられないほどの『喜び』です。