『さっきの地震は…私のせいです。昔から何度か、私の声で地震や嵐が』
シュエラは細く長い指先でそっと自分の喉元を押さえる。

「あなたの声、で地震が起こせるんですか?」

さっきの地震は魔術のひとつなんだろうか、とアナはぼんやりと思う。
魔術などの類には疎いのでよくわからないが、大地すら動かせる魔術師がいても不思議ではないのかもしれない。

しかしシュエラは悲しげな顔のまま頭を振る。

『あれは魔術ではありません。私には、ほとんど魔力がないので』

シュエラはそっとアナの手をとって立ち上がらせた。

手が触れ合うことや、意外にも力強く支えてくれたことにドキリとしたが、アナは動揺を見せないようにつとめる。

シュエラはアナを近くの椅子に座らせると、散らかった物を片づけ始めた。

『魔術師見習い、と言っても、師匠も私に魔力がほとんどないことはわかっています。
ただ…私の声、がいつも災いを起こすので…こうして、実際に声を出さず話せるように魔術を教えてくれたんです』

目を合わさず淡々と片づけながら話すシュエラの声は、小さく、時々震えていた。

「災い…?」

アナは遠慮がちに問う。

『…物心ついたときから、自分が声を出すたび強い風が起こったり、小さな地震が起きたり、村に獣を呼び寄せたり──子どもの頃にひどい嵐を起こしたこともあるんです。また、こんなとんでもないことを起こしてしまうなんて…』

にわかに信じがたいシュエラの言葉に戸惑いつつ、アナは何かが引っかかったが、それよりも床に落ちたままにしていた欠片が目に入って、些細な違和感はどこかに消えてしまった。