アナがじっと自分の顔、それも口元を凝視しているのに気付いた男は、

『魔術師見習いでもあります。とても魔術師だと名乗れるほどの力はないので…せいぜい、こうして声を出さずに相手に言葉を伝えることが出来るくらいです』

と、付け加えた。

アナはやはり動かない唇から言葉が聞こえるさまに、はげしい違和感を感じながらも納得して頷く。

視線をはずすことすら忘れたかのようなアナの呆けた顔に、シュエラは困ったように柔らかく微笑んだ。

アナは今度はその表情に見とれてしまいそうになる。無垢なほど美しい顔に笑みが浮かぶと、心がざわざわと暴れ出しそうなほど魅惑的だ。
――アナはそんなことを思う自分に動揺した。

考えたら叔父とですらこんなに間近に顔をあわせて話したことはない。

急にシュエラとの距離を意識してしまったアナは焦って後ろに下がろうとした。

途端にさっきまで忘れていた足の傷がずきりと痛んで、立ち上がるつもりがよろめいて尻餅をつく。

ドサッと音をさせて派手に倒れたアナに驚きながら、スカートから覗いた足が赤く腫れているのに気付いたシュエラは再び蒼白になった。


『私のせいで怪我を…』

言いながらシュエラはすっとアナの足元に身を寄せて、腫れた患部に触れるか触れないかの近さで手をかざした。

暖かい、とアナが思っているうちにすうっと痛みが引いていく。

(これは…魔術?)


アナは目の当たりにした不思議な力に感心してしまうが、その前に言ったシュエラの言葉が気になった。

「あの、あなたのせいって何の事?」


訝しむアナの前で、シュエラは申し訳なさそうに目を伏せ、ますます悲痛な顔になっていく。