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サクラ咲く、3月某日。


新入生となる私は、私立桜陽(オウヨウ)学園の説明会に来ていた。


俗に言う、仮登校日。


親の転勤で…というありきたりな理由で、引っ越しが決まったのはつい2週間前。


それから慌てて高校を探して、辿り着いたのがココ。


当然周りは知らない子ばっかり。


しかも、中学校の時の制服を着て来たんだけど、なんか浮いてる…。


田舎っぽいからかなぁ。


なんとなく周りの都会っぽい空気に馴染めなくて、説明会の間はずっと下を向いていた。





そして、帰り際…


私は裏庭に、一本のサクラの木を見つけたんだ――――――――。























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『おぉーっ! キレーな桜!!』


前に住んでいた田舎にもあったなぁ。


おっきい桜の木。


そんな懐かしさに埋もれていると、桜の木の下に、座っている人影を見つけた。


あの人に見つかっちゃダメかな?


もう、下校時間は過ぎてるし。


あまりウロウロしないで下さいねって念も押されてる。


でも、私は足が縫い付けられたようで…そこから離れられなかった。



『誰?』



オトコノコとも、オンナノコともハッキリ言えないような綺麗な声。


こっちを一切見ずに投げかけられた言葉は、一瞬誰に宛てられたものかわからなかったけど、多分私宛。



『ごめんなさい…新入生予定の者です』



名前を言ったら先生から怒られちゃうかな、と思ってのズルイ答え。


でも彼はそんな事を気にも留めずに


『キレイだよね、このサクラ』


と言って微笑んだ。













その微笑みは綺麗だったけど


どこか儚く、寂しげだったのを覚えてる
















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=王子side=

3月某日。

俺は高校生活についてや進路ガイダンスの説明を受ける為に、進学先である桜陵学園に来ていた。

まぁ、俗に言う仮登校日。

中高一貫だからか、あまり…というか全然変わらない面々。

だから俺が行くと騒ぎになるのは目に見えている。



生まれつき色素が薄い髪と目。

つまりはハチミツのような茶髪に、同じような目。

…誰だ、最初に俺を王子だと言ったヤツはっ

いっその事、チャラい奴だと思って避けてくれ!!






―――――――御覧の通り、俺は自分の見た目が大嫌いである。












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女子に…というか、自称"俺のファンクラブ会長"を名乗る伊織に騒がれるのは面倒なのでサボろうと思い、見つけたのがココ。


いや、前から知ってはいたが、なかなか入る機会がなかっただけなんだが。

樹齢100年で、"アノ人"と同じ名前を持つこの木の名前は"小町"。



なんだか運命を感じるなぁー、と木の根元に座って持参した本を開き、活字の世界に溺れ
て数十分。

ガサッという草を揺らす音で我に返る。



読書に集中し過ぎだろ、俺。



つーか、伊織だったら非常に面倒なことになるんだが…

伊織じゃないよな?


木の陰に隠れて様子を見ていると、なんとも無邪気な声が聞こえてきた。


『おぉーっ! キレーな桜!!』


と。

正直、ガクッと力が抜けた。

なんだよ、驚かせやがってっ!!


とりあえず見つかってないことに安堵して、わずかに振り向くと……。




居た。




ウサギが。

いや、あれは子うさぎ?


いかにもアホそ…天然で純粋そうな、ちっちゃい女の子。



いたずらな風に遊ばれてる背中半ばの黒髪に、色白な肌。

なんであんなに大きいのかと不思議になるくらい大きな目。

桜に目を奪われて半開きになってるピンクの唇と頬。






―――…って俺、変態じゃねぇか!!!






これは、俺から声を掛けるべきなのか?

内心かなりドギマギで、ソワソワしつつも決意して、声に乗せる。



『誰?』



ダメだ、俺…。








ていうか、他人の名前聞く前に自分が名乗れって話だろ!!



独り、心の中で頭を抱えていると、向こうも返答に困ったのか僅かな間の後に、


『ごめんなさい…新入生予定の者です』


と答えてくれた。

それよりも…声まで可愛いな。

それに、めっちゃ良い子だ…っ。


"新入生予定"ってことは、俺と同い年ってことで…4月から、同じ教室になれるかも?

そう思うと、自然と笑みがこぼれた。






『キレイだよね、このサクラ』






立ち入り禁止区域内に入った事を後ろめたく思っているだろうキミに、それ以上は聞かずに言った。

ここで会ったことは、誰にも内緒だよ、と心の中で思いながら。













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本当にキレイだよ、この桜は。

"あの人"を思うと、ひどく切ない気持になるけども。

あの日僕の心は止まったけれど、年月は着々と流れている。









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=side子うさぎ=

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朝。

ぴぴぴ…と枕元の目覚まし時計が鳴って目覚めた。

時刻は6時半…う~む、眠い。

昨日の夜、興奮しすぎて寝付けなかったからに違いない。

今日は、入学式をやってHRをやってだから、お昼ちょっとすぎには帰れるはず。

帰ったら、寝よ。


モソモソとベッドから降りると、ドアがバッターンと開く。


「ぐっもーにん♪ ひな~」


うるさい。

なんでそんなにハイテンションなの、お姉ちゃん。

今入ってきたのが柏木雛乃、19才。私のお姉ちゃん。今日から(?)大学2年生。


「いやん、相変わらず低血圧なのねー」


髪を暗めの茶髪に染めてゆる巻きにして、メイクもブラウンを基調としたナチュラルメイク。

ぱっと見大人しそうだけど、性格はガサツ…じゃなかった、姉御肌で面倒見が良い。

ただ、怪力で不器用。

お姉ちゃんの作るリンゴのうさぎの耳は、絶対に左右非対称というツワモノ。


「お姉ちゃんは朝から元気良すぎなんだよぉ…」


「だって、どうせ過ごすなら明るく楽しい方がいいじゃない。はい、ご飯よー」