――楓サイド――
「……」
「ぐすん」
いや…これこの状況…どうしろっつーんだよ。
中途半端なまま置いてきやがって…真裕め。
「あー……あの…」
最大級に気まずい空気の中、とりあえず意味もなく声を発してみる。
膝を抱え込んで子供のようにいじける姿は、真裕にそっくりだった。
「……楓くん?」
「はあ」
「私はね、あの子の前ではいつだって父親でいたいんだ」
「…?」
…いじけながら……親父さんは。
ぽつりぽつりと胸の内をこぼし始めた。
「そりゃあ確かに、仕事のできるおとおさんってかっこいいかもしれない。でもさ…家で威厳を振りまいてたって、楽しくないと思わない?」
「はあ…」
「たとえどんな苦労があったって、それは全て家族のため。娘のためだろう…? それを見せちゃあ意味ないと思うんだ」
いや…それはいいんだけど…。
せめてその恰好どうにかなんねェかよ。
「やっぱり男ってェのは、心意気見せてなんぼのもんだと思うんだ。その形が人それぞれだっていいじゃないか…! そう思わない、楓くん?」
「……はあ」
イマイチこう……胸に響かねェ。
なにがってその恰好だろ。
いじけながら言われても、説得力も迫力もへったくれもあったもんじゃねー。