教室にはもう誰も残っていなかった。


薄暗く、澱んだ空が教室を包み込んでいる。





素早くコートを着てリュックサックを背負うと、下駄箱に急いで向かった。







何だか胸が凄くざわついて、落ち着かない。


さっきの記事を読んだから?




…あの事件……なに?


今まで色々な事やもっと悲惨な事件なんて山程あるのに…何であの事件だけ……





怖いって思うんだろう。










早く…早くお兄さんに会いたい…っ。



私は縺れる足を速めた。








オレンジ色と青色が交ざったなんとも言えない空が道を暗くさせる。


はぁ はぁ はぁ




息が零れそうだ。


足の感覚がわからなくなりそう…




その時


「…っ!?」


石に躓いて前のめりに倒れた。



「い…たたぁ…」


衝撃が強かったために、早く立ち上がれない。














「大丈夫?」




…え…。


少し低い、柔らかい声の主に目を向ける。



暗くて…よく見えない。



誰?




その瞬間に街灯の電気がついて、“その人”の顔が浮かび上がる。








…あ。綺麗だ。



真っ黒な夜のような髪、何でも見透かされるような目…



一瞬女の人かと思うくらい、人をこんなに綺麗だと思ったことがなかった。